近年、些細とも思える法令違反をきっかけに、経営を大きく揺さぶられる事案が散発している。そこでは、「昔からの慣習」や「同業他社もやっている」との弁解は通らない。なぜなら、ターゲットとされているのは、その会社自身だからだ。わずかな隙を突かれて営業停止となり、結果、倒産に至ったケースもある。
<その時は突然訪れる>
7月27日、北九州地区で高い知名度を誇る(株)大島組の大島龍次代表(当時)が、福岡県警に逮捕された。企業経営ではさまざまなトラブルが生じるものだが、代表者の逮捕にまで至るケースは多くはない。民需中心の同社の受注形態からは、談合や贈収賄は考えにくい。大がかりな事件の可能性も想定したが、蓋を開ければ単なる建設業法違反であった。しかも、被疑事実は、『同社の代表取締役が虚偽の専任技術者証明書を県に提出し、(中略)...建設業法に違反』したというもの。たしかに、専任技術者の設置は建設業者としての許可の可否にも関わる大切な要素ではあるが、これにより当該建設業者の代表者が逮捕されるのは異例の事態である。
ただ、微罪での代表逮捕に至る経緯につき、思い当たる節がないわけではない。2011年の年明け早々、弊社取材班は「北九州市内の建設業者数社の代表が県警から事情聴取を受けている」との情報を得ており、噂される1社に同社の名前も含まれていたからだ。
北九州地区ではスーパーゼネコン・清水建設の現場で起きた相次ぐ発砲事件など、暴力団の関与が噂される事件が多発している。年初に流れた情報に基づき、業界関係者からは「県警も市民の不安払拭のために本腰を入れたのか」との声が聞かれたが、当時、この点に関する県警からの正式な発表はなされなかった。しかし、その後もこの種の話を耳にすることが多々あり、関係筋によると、建設業者に対して任意で事業聴取を行う警察の活動は続けられていたようだ。
<前例をひも解けば>
加えて、このような見方が出てくる背景には、昨年、北九州地区で起こったいくつかの事案も関係している。
その1つは、言うまでもなく大内田建設(株)(北九州市小倉北区)の破綻であろう。10年5月、大内田建設の大内田薫社長と大内田昌副社長ら3名が逮捕された。逮捕容疑は「07年及び08年度の決算書を県に提出する際、虚偽の短期借入金を記載した疑い」というもので、今回と同様に建設業法違反事件である。ただ、捜査の段階で多くの時間が割かれたのは、暴力団との関係の追及(大内田薫社長)や筑豊地区での入札談合の追及(大内田昌副社長)であったとのこと。幾度かにおよぶ取り調べの結果、上記のような反社会的行為についての立件はなされず、結果的に建設業法違反として罰金刑が科されたにすぎなかった。
しかし、同社が背負った社会的なペナルティーは、罰金刑にとどまらなかった。新聞各紙は、同社と暴力団の関係を臭わせるような記事を競って掲載。「暴力団と関わりがある」というレッテルを張られた同社は、施主からの信頼を損なったことに加え、建設業許可の取消という致命的な追い打ちを受けることになる。地場デベロッパーに対する不良債権の発生も重なり、代表らの逮捕から3カ月という短期間の間に、倒産を余儀なくされた。08年7月期の同社の完工高は約108億円。北九州地区トップクラスの業績を誇った地場ゼネコンとしては、あまりにもあっけない幕切れであった。
また、10年11月、岩永工業(株)(北九州市小倉南区)は指定暴力団・工藤会と密接な交際をしていたとして、指名停止処分を受けている。舞台は指定暴力団構成員宅で催された新築祝いの宴会である。県警は、この場に出席した岩永工業の役員につき、暴力団構成員と「密接な交際を有し、または社会的に非難される関係を有している」と判断。自治体への通報と岩永工業をはじめとする業者名の公表に踏み切り、これを受けて各自治体から指名停止処分が出されることとなった。岩永社長は取材に対して「新築祝いに出席したのは事実ですが、その新築物件は、既存取引先不動産業者からの依頼で建築しました。その後にこの物件が暴力団関係者に販売されたため、まったく知らなかった」として暴力団との関係を否定した。しかし、大内田建設の事例と同様に周囲の目は厳しく、これを契機に同社との取引を中断した業者もあった。
ほかにも、捜査情報のリークとみられる「北九州で暴力団と関わり合いのある建設業者リスト」の出回りや、これに基づいたとみられる大手新聞社の記事掲載などが、大島代表の逮捕の伏線になっていたものと考えられる。
【田口 芳州、新田 祐介】
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