<辞めさせてもらえない転職!>
人材紹介会社の競争が激化するなかで、信じられない噂が流れた。X社経由で企業に入るとその企業の条件が当初と大きく違っていても、辞めさせてもらえないという噂だ。
ここで読者の皆さんに人材紹介会社の仕組みをとても簡単に説明しよう。
人材紹介会社は、基本は成功報酬で成り立っている。人材からは一銭も頂かない代わりに、人材が入社した企業から年収の30%前後を基準に報酬を受けとることになっているのである。例えば、年収600万円の人材の場合、無事入社すると、人材紹介会社は、180万(600万×30%)の報酬を受け取ることができる。
ただし、この契約には返金規定というものが付いており、通常は入社3ヵ月(支払い金額の50%)と6ヵ月(支払い金額の30%)で区切り、人材側の理由で退社した場合は、人材紹介会社が顧客の企業に、応分の率で返金しなければならない。
私の経験では1ヵ月(100%返金)の規定もつけている大手製薬会社があったのにはとても驚いた。その会社の面接は4回~5回程度。その上で判断した(合格)人材がどんな理由があるにしろ、1ヵ月で辞めてしまうのであれば、採用担当者の眼力はゼロだ。そのような会社にも問題はないといえるだろうか。
本題に戻ろう。なぜ「辞めさせてもらえないか」というと、この返金規定があるからなのだ。
3ヵ月、6ヵ月は留まってもらわないと、エライことになるのだ。だから、辞める時期を調整するために、いろいろな手段がとられることになる。私が一番驚いたのは、辞めさせない代わりに人材に10万円を渡したというX社にまつわる噂である。
たとえば、3ヵ月以内に辞めてしまった場合の返金額は90万円、3ヵ月を過ぎて辞めた場合は54万円だから、その差額は36万円になる。人材に10万払っても26万円の黒字になる。同じような人材が10人いたとすると260万円の黒字となるわけである。
なるほど、と読者の皆さんに納得してもらっては困る。ただ「お金」まみれというだけの話で、ここに倫理感はまったく無く、「人間の生きざま」が最高に歪められてる。
「黒子」であるべき人材紹介会社の売り上げランキングというのもおかしい。マスコミの興味本位の取材も、これに大きく悪い影響を与えた。現在はどうだかわからないが、欧米の伝統的なヘッドハンティングの会社の場合、売り上げはもちろん、基本的に会社情報は未公開と聞いている。
【富士山 太郎】
<プロフィール>
富士山 太郎 (ふじやま たろう)
人材紹介、ヘッドハンティングのプロ。4,000名を超えるビジネスパーソンの面談経験を持つ。紹介する側(企業)と紹介される側(人材)双方の事情に詳しく、各業界に幅広い人脈を持つ。
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