<失敗例はユアーズ・丸和>
M&Aが、すべて成功したわけではない。
失敗例の代表が、ユアーズによる丸和と石原商事の買収。ユアーズは丸和の再建を早期に果たすため、経営参加するとただちに正社員を4分の1に減らす大規模リストラを実施。業績はV字回復したものの、長続きせず、かえって営業力を弱体化させることになった。功を急いで自社の成功例を押し付けて失敗した典型的な事例と言える。
丸和とともに実施した石原商事のM&Aは、命取りになった。ユアーズは丸和再建に追われ、ただでさえ余裕がないのに、石原商事を抱え込んで負担が増大、自社の業績悪化を招くことになった。
丸和、石原を傘下に収め、中国地方から北部九州にまたがる広域SMチェーンに脱皮する構想自体は良かったが、成果を出すのに性急すぎたのと、自社の過去の成功例にとらわれたのがつまずきの原因となった。
トライアルカンパニーによるカウボーイの買収は、成功例に挙げられる。トライアルは、ゴールドマンサックスグループの投資ファンドに買収されていたカウボーイの店舗8店を低コストで取得、一気に北海道に足場を築いた。その後、カウボーイを拠点に店舗網を全道に拡張し、前期は約280億円を売り上げるまでになった。
小売事業から手を引きたがっていたファンドから交渉で有利な条件を引き出したのと、顧客の付いていた店舗をそっくり継承できたのが成功した要因だ。店舗の改装費用を別にすると、買収費用はタダ同然だった模様だ。
<利益面の成果は不充分>
M&Aの成否を図る尺度の1つが、買収または合併後に収益が改善されたかどうかだ。この基準に照らすと、M&Aが充分な成果を上げているとは言いがたい。
5件のM&Aを実施したマミーズの前期の売上高経常利益率は、わずか0.3%で、営業損益は2,700万円の赤字だった。当期損益は5期連続の赤字。収益改善が遅れているのは、相次ぐM&Aで改装などの費用が出て行くだけでなく、被合併会社の人員を継承するため経費が膨らむからだ。前期の売上高販管費率は25.1%と、SM平均より3~4ポイント高い。
西鉄ストアによるスピナの合併も、規模拡大を生かせるまでには至っていない。西鉄ストアの前期の経常利益率は0.9%と1%を切り、合併前の直近のピークである1.5%(05、06年2月期)を下回る。スピナも2%台を安定的に計上する優良スーパーだったが、その販売ノウハウを生かせていない。
マミーズ、西鉄ストアとも、合併で人員が膨らんだのに対し、売上は伸び悩み、経費構造の改善が遅れているのが低利益の原因。
利益率改善に結びつけたのが、サンドラッグによるダイレックスの買収だ。ダイレックスは、サンドラッグの店舗運営管理をはじめとした低コストの経営システムを導入するほか、医薬品や化粧品はコストの低いサンドラッグからの仕入に切り替え、物流も共同化した。これらの成果で、10年2月期には1.4%だった経常利益率は、前期には2.26%と大幅に改善された。
店舗展開でも、サンドラッグの支援でそれまでの200坪主体の小型店から、DSとドラッグストアを融合した300坪以上の新型店舗を開発、今期から大量出店を始めている。サンドラッグにとっても、ドラッグ商材をダイレックスに供給することで販売量を増やし、原価を引き下げられるメリットがある。
サンドラッグのM&Aが成果を上げているのは、ダイレックスと補完関係にあったことが大きい。サンドラッグはDS業態を手中に収めることができ、ダイレックスは弱体だったドラッグ商材を強化することが可能になった。
有力企業は、成長戦略にM&Aを積極活用する方針を打ち出している。マミーズは中期的な売上目標を300億円に置き、M&Aと居抜き出店で達成を目指す。
西鉄やJR九州などの地元大企業だけでなく、中央の大手流通資本によるM&Aも予想される。全国展開を進めるマツモトキヨシとサンドラッグは、地場企業を買収した。10月5日には、イオンが中四国を地盤とするマルナカグループの買収を発表。グループ売上高3,300億円の大手SMを傘下に収め、同地域でのシェアを一気に拡大する。
競合激化で業績が悪化したり、後継者難に直面する中堅中小企業が、M&Aの対象となる可能性が高い。
(了)
【宗像 三郎】
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