流通業界でM&A(合併・買収)が続いている。9月、西日本鉄道が佐賀県の中堅食品スーパー、(株)あんくるふじやを買収したのに続き、イオンが中・四国で店舗展開するマルナカグループを傘下に収め業界を驚かせた。M&Aは今後も続くのか?流通担当記者に今後を占ってもらった。
<役員も知らされず>
―あんくるふじやの買収は寝耳に水だった。
A 我々もノーマークだった。あんくるの役員も当日知らされ、驚いたそうだ。年初から金融機関を仲介役に西鉄と太田尾こずゑ社長の間で水面下の交渉が進められ、半年以上もかかったのに、取引先にも情報がまったく漏れなかった。M&Aは極秘裏に進めないと失敗すると言われるが、今回は徹底していた。
―公益企業で何事にも慎重な私鉄が、オーナー経営のスーパーを買収するのは珍しいのでは?
B そうでもない。関東の京浜急行電鉄が、元明治屋産業社長で現ニューヨークエボリューションのオーナーの谷尾凱夫氏が神奈川県で経営していたユニオネックスを3年前、買収した。谷尾氏はキャピタルゲイン約50億円を手にした。
C 西鉄には流通企業を含めM&A(合併・買収)案件が山ほど持ち込まれる。そのなかでも、あんくるは西鉄ストアと店舗網が重ならないうえ、経営内容が比較的良好なことが評価された。
―これからもM&Aはあるのか。M&Aに意欲を持つ会社を挙げて欲しい。
A まず西鉄。流通事業を不動産と並ぶ非鉄道部門の中核事業に位置付けており、スピナ、あんくるふじやと2件成功させた。ただ、食品スーパーでは今回のM&Aで福岡県のほぼ全域と佐賀県東部をカバーできるようになり、一段落した。
C 最右翼はマミーズ。昨年、福岡大洋フードセンターとトーホーストア福岡をタテ続けに買収したが、オーナーの近藤吉宏代表取締役会長は「案件次第で今後もやる」と言っている。大洋フード、トーホーとも、相手が手放したかっただけに、あまりカネもかからなかったのでは。「まず、年商200億円に持っていくことが先決」というのが近藤会長の考え。それを超さないことには、チェーン展開のメリットが出ないし、事業をやる意味もない。M&A一本で事業拡大するというのは、全国でも珍しい。
B 実績のある企業ではハローデイ。JR九州も流通事業を重点分野の1つに挙げており、M&Aには意欲的だ。
―ただ、ドラッグイレブンは売上が減り、事業拡大に積極的とは思えない。
B ドラッグストアは、九州内だけでの店舗展開では限界がある。店舗網を域外に拡張し規模拡大を追求していかないと、生き残れない。JR九州もそのことがわかったのではないか。時機を見て売る可能性が高い。流通分野でM&Aをするとすれば、地域密着性の強いSMになるだろう。
<トライアルも意欲>
―トライアルカンパニーは?
A 北海道のカウボーイ買収以来音沙汰なしだが、可能性はある。みずほ銀行から迎え入れた亀田晃一専務というM&Aの専門家もいる。案件を物色しているはずだ。
―被買収企業はどうか。
B 企業が売りに出るケースは2つ。1つは、業績が悪い企業。もう1つは、業績は順調だが、オーナー経営者に跡継ぎがいなかったり、親会社やオーナーが事業継続の意欲に乏しい会社。前者はマミーズによる大洋フードとトーホーストア、トライアルのカウボーイ、M&Aではないが、ハイマートによる西原食品店舗の買収などだ。競争激化でこうした会社の売り物が増える可能性がある。ただ、買う方も慎重になる。
むしろ可能性として高いのは後者のケースではないか。
―そんな売りに出される企業はあるのか。
A たとえば、筑後のアスタラビスタ。業績は順調で前期の売上高は5.9%増の123億円、経常利益は5.8%増の3億1,100万円。売上高経常利益率は2.53%もあって、福岡県のSMではハローデイに次いで高い。ところが、親会社の(株)イケヒコ・コーポレーションはい草の大手メーカーで、本業との関連が薄い。イケヒコのオーナーは、地元筑後の農村部にSMが少ないことから、半ばボランティアのつもりで事業を始めたといい、経営はダイエー出身の松永修社長に任せ、自らはタッチしてない。本業の動向次第では今後、売却する可能性がまったくないとは言えない。
| (後) ≫
*記事へのご意見はこちら
※記事へのご意見はこちら