古川康佐賀県知事の関与疑惑まで浮上した、九州電力の『やらせメール』問題。福島第一原発事故により、全国的に原子力エネルギーの是非への関心が高まるなか、玄海原発(佐賀県玄海町)の安全対策の説明番組において、賛成メールの『やらせ』が行なわれた。同問題に関し、第三者委員会のメンバーとして原因究明にあたった、九州大学大学院・法学研究院の阿部道明教授に、企業の社会的責任が重視されるなかで、なぜ『やらせ』が起きたのか、率直な意見を述べてもらった。
<世間からの批判に鈍感な九電・原子力部門の体質>
――最初に、阿部教授のご専門でもある「コンプライアンス」の定義的なところからご説明いただけますか。
阿部道明教授(以下、阿部) コンプライアンスの「コンプライ」とは、「従う」という意味です。もともとは「法令、規則、条例などに違反しない」ということでした。しかし、社会のなかで認められていくためには、「法令違反をしない」ということだけではなく、社会的・道徳的なことでも非難されるようなことをしないような社会から許容される存在でなくてはなりません。そういうところまでコンプライアンスという概念が広がり、『CSR』(企業の社会的責任)という概念にも近づいてきています。
国際的にみれば、OECDの多国籍企業行動指針はすでに1976年に作成されています。そのなかでは、たとえば、児童労働や深夜労働などいろいろな問題が起こってきています。もちろん企業の行動を律する法令自体もさまざまな種類のものが作られましたが、次第に、それだけではダメだということ、法令の枠内にはまる行為であっても、社会的に非難される行為というのが認識されるようになってきたのです。これは国際的な流れで、それが日本にも概念として持ち込まれてきていると思います。
――グローバル化が進むなかで、日本の企業にも加速度的にその概念が普及していったわけですね。となると、九電のように日本国内だけでやっていけるような会社の場合は...。
阿部 電力会社の場合は、『地域独占』という特殊性もあります。普通の会社なら問題を起こせば、たとえば不買運動が起きます。電力の場合、不買ができないわけですから。そういうこともあり、世間の批判や非難に対し、鈍感な部分があります。普通の企業だったら大変ですよ。
――第三者委員会では、調査を進めていく過程で九電側が証拠書類を廃棄しかけたという問題が起きました。
阿部 あまり頻繁にあるようなことではないので、これは重大だという認識がありました。廃棄を指示した人の話も委員として直接聞きました。もちろん、その時点では反省はしているのですが...。それ以上に、「会社のために、議員を含む関係者の名前を外に出したくない」という気持ちのほうが強く働いたのではないかと思います。コンプライアンスが「会社のため」という意識で破られることは、日本の特徴でもあります。
――九電の企業体質について、どのように感じましたか。
阿部 報告書にも書いてありますが、まず、原子力部門がほかの火力、水力などの部門に比べて、特殊な組織になっています。九電が、ほかの電力会社に比べて原発による発電量の比率が高いということもあり、原発の重要性が非常に高いということが1つ。あとは、原発に関する規制がものすごく厳しいため、『国や県など、行政の顔をみながら物事を進めていくという要素』がものすごく強い。いわゆる「原子力村」なのです。エリート意識が非常に強く、同時に一般消費者ではなく行政の側を向いて仕事をする。そういう意味では、一般の民間企業とは違うところがあります。
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■九州大学大学院・阿部道明教授が語る「やらせメールとコンプライアンス」
<日 時>
11月24日(木) 午後6時30分~午後8時(開場:午後6時10分)
<場 所>
中央市民センター・ホール
(福岡市中央区赤坂2-5-8)
※市営地下鉄赤坂駅より徒歩約5分
TEL:092-714-5521
<参加料>
2,000円(税込)
<講師紹介>
阿部 道明 (あべ みちあき)
1975年3月、東京大学法学部卒業。75年4月、(株)東芝に入社し、法務担当に配属。81年8月~82年6月、カリフォルニア大学バークレー校ロースクール留学(法学修士)。82年7月~82年12月、米国の弁護士事務所に勤務。83年1月、(株)東芝に復帰し、法務担当。以後、本部、家電パソコン担当、半導体担当にて法務担当(課長、部長)を歴任する。2001年4月、九州大学大学院法学研究院助教授。03年7月、同教授。現在に至る。コンプライアンス関係では、九州電力(株)本店、各支店、福岡県経営者協会でコンプライアンスの講演を行なうほか、九州電力CSR報告書に第三者意見を記載(06年および07年)。11年7月から9月まで、九州電力『やらせメール』問題に関する第三者委員会委員を務める。
<講演内容>
1.「コンプライアンス」とは何か?
2.不祥事発生のメカニズム(日本企業の特徴)
3.二次的不祥事を防ぐための事後処理
4.防止策(コンプライアンス・プログラム)
5.九電の「やらせメール」とは何だったのか?
<お申込・お問い合せ>
(株)データ・マックス 緊急講演会事務局(担当:山下康太)
TEL:092-262-3388
FAX:092-262-3389
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