他の候補者では、90年代にクリントン大統領批判や保守派の政策マニフェストを表明したことで話題になった、ニュート・ギングリッチ元下院議長が最近は注目されたり、根強い支持層を持つ、共和党では珍しく強硬な対外戦争反対を唱えるロン・ポールもいる。バックマンとケインの支持層がペリーに流れ込めば、ペリー逆転もありえなくはないが、ウォール街の銀行はロムニー候補を押している。
しかし、これもすべて表面上の茶番劇である。大統領というのは余程のことがなければ、2期を務めるものなのだ。したがって、次の4年間も民主党政権が続く。それでも大統領選挙はお祭りなので、テレビもメディアも政治言論で商売している人たちは盛り上げざるを得ない。
むしろ問題は、民主党内部の主導権を巡る争いである。先週はオバマ大統領とヒラリー・クリントン国務長官が相次いでハワイから東南アジア、そしてオーストラリアへの訪問を行ない、「アメリカの太平洋国家としての顔」を売り込むのに必死だった。アメリカは欧州債務危機による太平洋を挟んだユーロ圏の国家債務危機の余波を恐れつつも、次の覇権国に名乗りを上げつつある中国をどのようにアメリカのゲームのルールに従わせるかを考えている。大きくはTPP(環太平洋経済連携協定)で東南アジア諸国や日本を取り込もうとしているのはそのためである。
オバマ大統領はもともと大統領に当選する前は上院議員の1期目も全うしていなかった新人の「ひよっこ議員」であるが、ハンサムで見てくれがよいことと、演技力に長けていることだけが理由でアメリカのパワーエリートによって、大統領に選ばれた。とうとう、最近のニューハンプシャー州での選挙集会では「ウォール街占領運動(OWS)」のメンバーからオバマに対して厳しい追及のヤジが飛んだ。国内の若い世代を結集するためには役に立った、オバマのカリスマ神通力ももはや衰えている。
表看板であるオバマの背後では、バイデン副大統領が議会共和党の「ドン」であり下院議長であるジョン・ベイナー議員と話し合って、8月の米国の赤字国債発行法案(債務上限見直し法案)をまとめた。また、海外で外交のキーになっているのはもはやオバマではなくヒラリー・クリントン国務長官である。ヒラリーはオバマに取って代わるつもりがないといい、バイデンも2016年の大統領選挙に出馬することは考えるということであり、具体的にオバマを交代させるという動きは出ていない。ただ、現政権の真の実力者はオバマではなくこのふたりだ。ただ、TIME誌に代表される米メディアはヒラリーを最近も盛んに持ち上げている。
いずれにせよ、民主党を見ても「人材不足」であり、オバマ、バイデン、ヒラリーに加えてパネッタ国防長官を加えてチームとして一体になることでようやくアメリカの舵取りをやっているということなのである。
欧州諸国では選挙を勝ち抜いた議員ではなく、技術官僚(テクノクラート)と言われる専門家・知識人や財界人が政治を動かし始めている。マリオ・モンティ首相が率いるイタリアの新政権は、その閣僚すべてが非国会議員になった。
日本でも官僚主導への批判が強いが、結局、民主党政権をコントロールするのは官僚たちだ。アメリカでも、議会で民主党と共和党の政治家たちがお互いにイデオロギー化した極論を言い合っており、超党派の特別委員会で議論された予算削減案は成立せず、13年からの多岐に渡る分野で毎年巨額の予算の一律カットが行なわれるようになる。
12年はフランスやロシア、中国でも指導者の交代がある。日本でも民主党代表選が予定されているし、その前に解散総選挙の可能性もある。世界の政治経済が、混乱を強めていくなか、それでも茶番劇である共和党の候補者選びを続けざるを得ないアメリカという国はいったいどこに向かおうとしているのか。
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<プロフィール>
中田 安彦 (なかた やすひこ)
1976年、新潟県出身。早稲田大学社会科学部卒業後、大手新聞社で記者として勤務。現在は、副島国家戦略研究所(SNSI)で研究員として活動。主な研究テーマは、欧米企業・金融史、主な著書に「ジャパン・ハンドラーズ」「世界を動かす人脈」「プロパガンダ教本:こんなにチョろい大衆の騙し方」などがある。
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