食材の購入をスーパーマーケットで担える時代となり40年以上が経過する。それまで食卓を支えていた肉屋、魚屋、八百屋は単独では事業を維持することができず、スーパーマーケットのテナントに入るか、または廃業を選択せざるをえない時代があった。しかし、このような時代のなかでも先代から受け継いだのれんを守り、八百屋業一本で勝負を掛ける人たちもいる。
<誰が作ったのではなく、誰が目利きして売っているのか?>
お客さんとのコミュニケーションを大事する対面販売を実践している植木さんだが、それだけではこれほどの集客はありえない。やおや植木商店では、減農薬などの安心で安全な野菜を提供しているだけでなく、あまり聞き慣れない"野菜の熟成"を行なっている。
「たとえば大根やトマトは採ってきてすぐにお出しすれば美味しい訳ではない。物によっては何日間か熟成させたほうが美味しいものもある」という。同店ではミニトマトが飛ぶように売れる定番商品であるが、売れる秘密は糖度の高さにある。透明なカップに小分けされたミニトマトの糖度は8~9度もあり、甘い。この甘さの秘密は熟成することにあるという。多い時は100ケースも売れるそうだ。
「野菜には採れ時、食べ時、買い時があります。採れてすぐ食べたほうがよいものもあれば、食べないほうがよいものもある。お客様には野菜の食べ時を知っていただきたい。うちがネタ元になって食べ時と旨い野菜を届けることでお客様が"ニコッ"と笑顔になってくれればいいんです」と語る植木さん。今の食卓に欠けている家族のだんらんを美味しい野菜を届けることで笑顔が生まれ、家族の絆を深めてほしいという願いが込められている。
植木さんの想いはチラシをまかなくとも口コミで広がり、人が人を呼んで繁盛店へと成長している。「おかげさまでお客さまには楽しんでお買い物をしていただいてます。うちのお店は待ち時間も退屈しませんし」と語る植木さん。退屈しないというのは、レジ待ちの人たちにスタッフが野菜や果物の試食を配っているのだ。レジ裏には調理場があり、梨やミカンといった旬の果物などが定期的にふるまわれる。
「おーい。子どもが行きたくもないお母さんの買い物に付き合いよるっちゃけん、美味しいミカンば食べさせれ!」と、植木さんがスタッフへ指示を飛ばす。子どもたちは甘いミカンを食べながら微笑ましい笑顔を浮かべている。売り場は、子どもに本物の味を教えるという食育の場にもなっている。
売り場をひとつ見ても高いディスプレイにはせず、子どもでも手の届く位置に商品が陳列されている。これもお年寄りや子どもに対する配慮。「商売は売り手の立場に立って物事を考えてはいけません。お客様の立場になった時に"自分だったら買うか"ということを考えるとお客様の目線に立って売り場を作らなければいけません」と、顧客目線をとても大事にしている。これによりオープンからわずか8カ月でリピーターの人たちが絶えない店舗になっている。
「スーパーの野菜売り場でもそうですが産地や作り手の方々がクローズアップされる売り場がよく見受けられます。しかし、八百屋業は、誰が作ったのか?ではなく誰が目利きしているのか?というのが大事だと思っております。それはまさに真剣勝負です」と話す植木さん。八百屋の世界に入り36年。休むことなく毎日午前1時に起床し、自分が目利きして納得したものだけを売る。妥協を許さない仕事に取り組む姿勢と、長年の経験が今日のお店の繁盛に繋がっている。
八百屋という業種自体があまり見受けることがなくなった現代で、業態を変えることもなく、八百屋という業種一本で勝負を掛け、奮闘している。活気のあるやおや植木商店の売場を見ていると、「まだまだ日本の八百屋も捨てたもんではない」とつくづく実感してしまう。
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