一方の最大野党・自民党もまたまとまりはない。次の首相候補である石破茂の周りに集まる新派閥である「さわらび会」の7日の初会合には最大派閥の町村派(清和会)の43人にせまる38人が集まったそうだが、石破周辺が「ミーちゃん、ハーちゃん」で騒がしいのは石破が「自民党のなかの親米派」というスタンスを鮮明にしているからで、これがアメリカの外交官僚にとっての「利用価値」だからである。自民党政権時代に権力闘争をじっと睨んで生き残ってきた政治家ならではである。
日本では政治家は、国内では外務省・財務省、海外ではアメリカ国務省に認められなければ総理大臣としてうまくいかない。そのことは民主党政権初期の時代の外交公電をリークしたウィキリークスの機密暴露によって浮き彫りにされた。
日本は政治家主導ではなく、官僚が決めた事柄や方針を政治家がなんとか理解してそれを推進する官僚主導国家であるが、日本が官僚主導国家であったのは、古くは平安時代の律令政治の時代からのことであり、主権者(ソブリン)である天皇の代理人である朝廷の高級官僚である藤原氏が天皇親政ではなく摂関官僚政治を敷いて、宮中(今で言えば霞ヶ関)の内部をその藤原氏の一族で固めた頃からだ。
明治時代になってもこの前近代的な「律令政治」が横行し、日本の近代化を阻害した。(私は今年の夏に刊行した『日本再占領』という自著のなかで日本の官僚主導政治の歴史を詳しく総括している)
日本の政治の対立軸はだから、今もなお、日本の近代化を阻害する勢力と近代化を推進する勢力の争いである。消費税問題やTPP問題もすべてこの対立軸に収れんしていく。日本のマスメディアも政治家たちも駄目なのは、政治家・小沢一郎を語る際に、どうでもいい政治資金問題の是非を論じたて、日本の本当の問題点を常になおざりにしていることだ。
少し政治の現場にいた人であれば「政治資金収支報告書」の記載形式が、いい加減な単式簿記であることや、総務省の政治資金課が収支報告書のミスに関しては修正を受け付けてきた歴史を知っているはずだ。それなのになぜ「政治とカネ」で馬鹿のひとつ覚えのように記事を書くのか? そういう決まりきった記事のほうが書きやすいからか?
メディアは「政治とカネ」というが、政治家というのは、秘書という従業員を雇って政策という製品を作り出す中小零細企業の経営者のようなものだ。そのためには人件費や必要経費がかかると考えれば、そこらのサラリーマン程度感覚では大金であるお金が普通に動く。
つまり、「政治とカネ」という問題について、マスコミのインタビューで「クリーンな政治家がいなくなった」という受け答えをする低レベルの泥臭い生活感から遊離した感想を持つ「主婦層」や国民がまず大きく反省しなければならないということである。
30年以上前に「ロッキード事件」で起きた角栄バッシングが日本の政治をここまで悪くしたのであり、特捜検察の正義の暴走(という名の「出世主義」)は日本を危うくするところまで来た。そういう流れのなかで村木厚子さんの冤罪事件が起きて、前田恒彦という特捜検事が証拠隠滅の疑いで逮捕されたわけである。
<プロフィール>
中田 安彦 (なかた やすひこ)
1976年、新潟県出身。早稲田大学社会科学部卒業後、大手新聞社で記者として勤務。現在は、副島国家戦略研究所(SNSI)で研究員として活動。主な研究テーマは、欧米企業・金融史、主な著書に「ジャパン・ハンドラーズ」「世界を動かす人脈」「プロパガンダ教本:こんなにチョろい大衆の騙し方」などがある。
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