依頼者からの預かり金を横領したとされる稲尾吉茂弁護士(福岡県弁護士会所属)の破産開始決定が13日、福岡地方裁判所でなされた。同氏を知る弁護士によると「いたって真面目」な人柄。法と正義を担うのになんら問題がないかに見えた。それが、開業からわずか5年間での転落。破産申立から浮かび上がった横領の背景、弁護士経営の実情を追った。
<弁護士の経営>
稲尾弁護士の破産申立内容から、わずか5年間で経営破綻した実態も浮かび上がった。
負債総額8,100万円、毎月平均100万円以上の赤字だった計算だ。実際、開業初年に経費をまかなう売上がなく、年毎に売上が減少。次々に預かり金を横領していったという構図だ。
「弁護士白書」などによると、弁護士一人あたりの収入は2,1055万円。この10年間で約700万円減少、所得は993万円とついに1,000万円を切った(いずれも平均値よりも実態を反映している中央値)。
事務所を単独経営する弁護士の20人に1人が年収500万円未満。「高学歴ワーキングプア」と、自嘲の声が聞かれる。年収200万円未満も1・7%いる。稲尾弁護士も、その一人だったのか。
司法制度改革10年によって、弁護士人口が3万人を超え、法律相談の機会増大、民事扶助制度の拡充など市民にとってメリットをもたらした。
一方、司法の需要が伸びず、弁護士サイドは、相談・受任件数の減少、弁護士費用の低額下と利益率の低下に見舞われている。司法試験の新規合格者は「勤務先の法律事務所が見つからず、即独(弁護士登録してすぐに開業)、仕事がない」という。知人からの紹介で依頼するという従来の業態も様変わりし、「弁護士会や法テラス(日本司法支援センター)のあっせん」「事務所外での法律相談」を通じた受任が4割以上にのぼっている。
こうした弁護士経営の厳しさについて弁護士に尋ねると、「稲尾弁護士の件とはまったく関係ない」と、一様に否定する。
しかし、弁護士業界も、業績悪化や赤字経営の荒波を乗り切らなければ、使命である人権擁護と社会正義実現が「絵に描いた餅」になりかねない。
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