マネジメントゲームは最終的な資本(純資産)の額で勝負が決まる。そこで、今回のマネジメントゲームモニター大会では惜しくも優勝は逃したものの、明確な戦略のもと成績上位となった参加者の取り組みを紹介する。
まず、最終的な資本の額で2位となったエンドライン(株)の山本氏は、薄利多売の営業戦略で市場から低・中単価顧客を積極的に集客して、3期を通して平均単価は最も低く、売上客数は最も多い127人を達成している。
この戦略を実行するために山本氏は早々に大型店舗を出店したうえで、自分が求める顧客層というのをいち早く定めていた感がある。特に第1期目で経常黒字を確保したのは、参加者のなかで山本氏だけ。これは無駄なコストを発生させないと同時に、一定額以上の売上規模が求められるため、スタート当初から迷いのない経営戦略があったことを示唆している。
また、経営の取り組みにおいては、売上客数と平均単価の関係が薄利多売を物語っている。しかしその一方で、大型店舗を運営するために人件費(固定費)が若干膨らんだにも関わらず、売上原価となる変動費は積極的に抑えるなど、メリハリのある経営戦略で元手資本500まであとわずかという水準まで挽回した。
次に、最終的な資本の額で4位となった井口食品(株)の井口氏は、高単価顧客のいる市場での勝負を選んだ。井口氏も山本氏同様にゲーム序盤から自分の戦略を明確にし、着実に準備を進めていた。
井口氏は経営3期を終えて、資本(純資産)は当初の資本額の約4分の1となる「117」で、第4位の成績となった。井口氏はスタート当初から早々と高単価顧客の市場への参入を決めており、この市場での成功要因となる「社員育成」に注力していた。客数は少ないが粗利の大きい高単価顧客市場で固定費を吸収するだけの利益確保を狙った戦略である。
ところが、第2期目までは順調だった井口氏も、第3期目に入ってから同市場の集客競争が激化したことで思うようにいかなくなった。ライバルとの集客競争に勝てないストレスや終了時間が迫るジレンマからか、最終局面で新たに中単価顧客の大量集客に望みを託したが、結局、急遽の設備投資が嵩んで経常黒字化は達成できなかった。
これまで紹介した事例を振り返ってみると、資本(純資産)を増やすという共通の目的に対する経営アプローチは参加者それぞれに多様であることがわかる。しかし、そのなかでも、粗利と固定費のバランスが勝敗を左右するカギであることは明確で、固定費を吸収して利益を確保するまで粗利を積み上げることは、まずの目的としては妥当だろう。
しかし、経営3期という限られた時間で資本(純資産)の額を競う条件のもとでは、ロスの回避とスピードの効率性が要求される。これは競争社会の本質ではないだろうか。効率性の分析指標には総資産回転率(売上高/総資産)があるが、今回のマネジメントゲームにおいての成績順位はほぼこの効率性の順位と同じである。カネが回転することでカネは増殖し、カネが動かないところに利益は生まれない。
世のなかには2つの経営感がある。「生活のための経営」か「カネのための経営」のどちらかだ。「カネのための経営」と言うと聞こえは悪いが、これはいわゆる大資本の論理で、そこに善悪はない。受け入れるかどうかは自らの問題で、世界経済はこの論理で動いている。
マネジメントゲームは、コスト構造を含め経営の本質を端的に気づかせてくれる非常に優れた経営シミュレーションである。将来の経営者候補から起業を考えている会社員や学生らに至るまで、経営の何たるかを体感したい方には強くお勧めしたい。もちろん、現役経営者にとっても経営の原理原則を再確認できるため、特に経営計画策定の前に時間をとってこのゲームに参加して欲しい。普段の経営場面では気づかなかった様々な気づきをこのゲームは与えてくれるだろう。
■お知らせ
会社の経営計画や幹部候補育成の教育プログラムとして、川庄公認会計士事務所さん2012年1月に開催されるようです。企業経営のコスト構造が体感できるマネジメントゲームへの参加をぜひご検討下さい。
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