国際原子力機関(IAEA)がイランの核開発に関して、核兵器製造という軍事転用の可能性が高いと指摘したことを受け、アメリカはイランに対する経済制裁の一環として日本をはじめ、イランから原油を輸入している国々に対し輸入差し止めの決断を迫っている。ちなみに、イラン原油の輸入上位5カ国は中国、インド、日本、イタリア、韓国という順番である。アメリカの対イラン政策の今後の進展如何ではアメリカと中国との対立関係が激化しかねない。米軍は空母やイージス巡洋艦をはじめ、ステルス爆撃機などをインド洋に集結している。事態を憂慮するロシアがイランとの首脳会談を通じて平和裏の解決策を模索しているが、打開の道筋は険しいまま。場合によってはホルムズ海峡の封鎖という展開もあるわけで、日本としても危機対応が求められる。
そうした動きを踏まえ、中国は中東およびアフリカ諸国との資源外交にかつてないエネルギーを注ぎ始めているようだ。そのような観点から、さらに注目すべき動きはアフガニスタンの油田開発に中国が名乗りを上げたことである。
中国の国営石油会社(CNPC)が2011年12月、アフガニスタン政府との間で、3カ所の油田開発に関するジョイント・ベンチャー設立の合意文章に署名をした。これはアフガニスタンにとっては初の国際的な協定である。これらアフガン北部に位置する3カ所の油田は8,700万バレルの埋蔵量と推定されている。世界全体の原油埋蔵量と比べれば、極めて小規模の油田ではあるが、アフガニスタンの経済発展にとって極めて重要な意味を持つもの。
なぜなら、これらの油田開発が順調に進めば、今後10年間にわたり、アフガニスタン政府は50億ドルを超える収入が得られるからである。中国の国営石油会社は「原油の収益の70%までをカブール政府に提供する」と申し出ており、ある意味で利益を度外視した好条件を提示している。それ以外にも中国はさまざまな便宜供与を約束しているようだ。
これまでアフガニスタンの地下資源に関しては、欧米諸国や近隣のパキスタンなどのエネルギー企業が参入を試みてきたが、治安上の懸念材料が払拭されず、中国以外の企業は二の足を踏んできた。今回の中国政府肝いりの油田開発プロジェクトは、あえてリスクを取ることで、アフガニスタンにおける中国の存在感を確実なものにしようとする戦略的な判断に裏付けされたものと思われる
実は、アフガニスタンには今回の油田以外にも未開発の天然資源が膨大な量で眠っている模様。特に、北東部のタジキスタンとの国境地帯には18億バレルの油田が確認されている。しかし、これらの資源を開発するには道路や鉄道を含め、莫大なインフラ整備の必要がある。各国が慎重な姿勢を崩さないなか、一人中国だけは積極姿勢に舵を切ったわけだ。長年の戦争で破壊されたアフガニスタンの経済、社会インフラを整備することにも新たなビジネス・チャンスを見出そうとしているに違いない。
<プロフィール>
浜田 和幸(はまだ かずゆき)
参議院議員。国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鉄、米戦略国際問題研究所、米議会調査局等を経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選を果たした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務政務官に就任。震災復興に尽力している。
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