<閣議で償還金制度決定>
政府は2月10日、防衛大学校(以下・防衛大)を卒業しても自衛官に任官しない者に対して償還金を徴収する制度を盛り込んだ自衛隊法改正案を閣議決定した。
償還金額は国立大学の入学金と4年間の授業料の標準額に相当する約250万円。6年以内に退職した自衛官も勤続年数に応じて減額した額の償還金を徴収する。新制度は平成26年4月の入校生から適用される。
在学中に支給された学生手当(月額10万8,300円)、期末手当(年2回で合計約31万9,000円)と現物支給の給食、宿舎の関係費は「教育訓練を受けた対価にあたる」として徴収しない。中退した学生からも償還金は徴収しないとしている。
既に、自衛隊医官を養成する防衛医科大学校では、任官辞退者や任官後9年以内に自衛隊を退職する場合、教育費の一部を償還金として徴収している。在職年数に応じて償還金の額は減額される。平成23年3月の卒業生の償還金最高額は4,811万円だった。
防衛医科大では、卒業時に卒業生の1割が任官辞退し、卒業後9年目までに約3割が退職し、卒業後14年目までに約5割が退職しており、償還金制度は医官の民間への流失を防ぐ役目を果たしていないのが実情だ(拙稿「なぜ、『軍医』は不足するのか」(『諸君』平成18年10月号)。
<償還金制度決定の背景>
平成22年9月、北澤俊美防衛相(当時)の指示により「防衛大学校改革に関する検討委員会」が設置された。検討委員会は9回開催され、その結果は報告書として昨年6月1日に北澤防衛相に提出された。
報告書は、「(1)新たな防衛大学校の役割、(2)教育理念の明示、(3)人材確保のための施策、(4)教育訓練、研究の充実、(5)防衛大学校の運営、態勢などの改革」の5つから構成されている。
その中で、(5)の防衛大学校の運営、態勢などの改革で、「一般大学の学生との公平の観点から、任官辞退者に対して授業料の償還金制度を導入する」ことを提言している。
政府の行政刷新会議も平成22年11月の「再仕分け」で、防衛省に対し、任官辞退者への償還金の徴収を求めていた。
防衛大は文部科学省所管外の準大学ということで、平成2年までは卒業しても学位授与機構から学士号の授与がなく、学歴的には高卒と同じであった。翌平成3年から学士号が授与されるようになったことも償還金徴収の理由の一つとされている。
しかし、学士号が欲しいために防衛大に入校してくる学生は皆無に等しく、日本社会では、防衛大卒は学士がなくても大卒扱いを受けている。
学士号授与の前から、任官後に一般大学の大学院に自衛官の身分で入学しており、学士号の授与があろうがなかろうが大学院受験にも影響はない。軍事アナリストとして活躍している元陸将・帝京大学教授(東京都参与)の防衛大2期生の志方俊之氏などは京都大学工学部の大学院を卒業している。
自衛隊の任務は国防に加えて、国際貢献活動、災害派遣と増え続けており、できるだけ多くの幹部自衛官の確保が必要とされているが、任官辞退者に対して授業料の償還金制度を導入すれば、逆に任官辞退者が今よりも増える可能性すらある。
なぜなら償還金さえ支払えば、正々堂々と任官辞退する道を作ることに繋がるからだ。今後、「防衛大学校卒」という学歴欲しさだけのために入校してくる学生がいてもおかしくないだろう。
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<プロフィール>
濱口 和久 (はまぐち かずひさ)
昭和43年熊本県菊池市生まれ。防衛大学校材料物性工学科卒業。陸上自衛隊、舛添政治経済研究所、民主党本部幹事長室副部長、栃木市首席政策監などを経て、現在、テイケイ株式会社常務取締役、国際地政学研究所研究員、日本政策研究センター研究員、日本文化チャンネル桜「防人の道 今日の自衛隊」キャスター、拓殖大学客員教授を務める。平成16年3月に竹島に本籍を移す。『思城居(おもしろい)』(東京コラボ)、『祖国を誇りに思う心』(ハーベスト出版)などの著書のほかに、安全保障、領土・領海問題、日本の城郭についての論文多数。 公式HPはコチラ。
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