<任官辞退は学生だけの問題ではない>
防衛大に入校してくる学生の中で、最初から幹部自衛官を目指したり、防衛大を第1希望で入校してくる学生は1割程度しかいない。
自衛隊の出先機関である全国の自衛隊地方協力本部(旧・自衛隊地方連絡部)の担当者も、防衛大合格者に対して、「防衛大に入校しても自衛官に任官しない道もあります」などと言って、防衛大入校を進める場合がある。担当者にしてみれば、自分の勤務実績として入校者を増やしたいという思いがあるのだろう。
実際、私の防衛大の同期生の多くは、入校前に出身地の自衛隊地方協力本部の担当者から「防衛大に入校しても自衛官に任官しない道もあります」という話を聞かされて入校している。
そのため入校後、防衛大の生活に馴染めず、1年生の途中で中退したり、夏休みが終わり、新学期が始まる9月に学校に戻ってこない1年生もいる。
最近では脱柵(学校からいなくなる)や、ノイローゼになり自殺する学生が後を絶たない。今年もこの2月に1年生が1人自殺している。
脱柵や自殺の一番の原因は、所属する学生隊の指導教官が、自衛隊地方協力本部の担当者同様、自分の勤務成績を悪くしたくないために、中退したいという学生を辞めさせないことが挙げられる。(学生の親が中退に反対するケースもあるが)。
参考までに、ここ数年の任官辞退者の数は、平成23年3月(卒業生397人中12人が辞退)、平成22年3月(卒業生364人中17人が辞退)、平成21年3月(卒業生431人中35人が辞退)、平成20年3月(415人中26人が辞退)、平成19年3月(421人中10人が辞退)している。過去には100人近い学生が任官辞退した年もあった。
<償還金制度の問題は防衛大だけではない>
防衛大生と同じ身分(国家公務員)で、学生として教育を受けている学校がほかにもある。気象大学校や海上保安大学校だ。
特に海上保安大学校は毎年卒業生の約1割か~2割が海上保安官に任官していないが、マスコミではほとんど話題にならない。また償還金の徴収も行われていない。
国家公務員(特にキャリア官僚)が海外の大学や大学院に国費で留学して、帰国後すぐに民間企業に転職するケースが問題になっているが、この場合も、償還金(留学費用)は徴収されていない。
防衛大の任官辞退者償還金制度の新設よりも、国民全体の国防思想の啓蒙・啓発の方が先ではないだろうか。
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<プロフィール>
濱口 和久 (はまぐち かずひさ)
昭和43年熊本県菊池市生まれ。防衛大学校材料物性工学科卒業。陸上自衛隊、舛添政治経済研究所、民主党本部幹事長室副部長、栃木市首席政策監などを経て、現在、テイケイ株式会社常務取締役、国際地政学研究所研究員、日本政策研究センター研究員、日本文化チャンネル桜「防人の道 今日の自衛隊」キャスター、拓殖大学客員教授を務める。平成16年3月に竹島に本籍を移す。『思城居(おもしろい)』(東京コラボ)、『祖国を誇りに思う心』(ハーベスト出版)などの著書のほかに、安全保障、領土・領海問題、日本の城郭についての論文多数。 公式HPはコチラ。
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