前回、筆者は最近の新聞紙面には、日本が表向きは資本主義国家だが社会主義国家と間違えてしまいそうな政策が毎日のように踊っていると書いた。おかげさまで、読者から多くの反響を頂いた。これはその第2弾である。
厚生労働省は2012年の通常国会で、企業の「65歳まで再雇用義務化」の法改正(高年齢者雇用安定法)を目指すことを決めた。なんと2013年から、実施したいということだ。正気で言っているのだろうか。それとも、現政権の最も得意とする机上の空論であろうか。真剣に、実態を調査・検討した結果、この結論が導き出されているとしたら、とても愚かである。
単純な論理で、「年金の支給開始年齢を引き上げる」と60歳~65歳まで職を持たない人間は生活ができなくなる。これは、大変だ。見かけ上だけは、何とか
しなければならない。とりあえず、その責任を企業になすりつけようという
論理だ。政治家とか、官僚とかは別として、この発想は、レベル的にあまりにも低い。
この法案施行が成功する唯一の方法は、「違反した場合は、その企業の責任者は刑事で重罰に処す」とでもいう以外にない。そうなると、当然だが、日本経済は崩壊する。それを危惧してか、ご丁寧に「再雇用対象者の待遇は本人の希望や過去の待遇に沿ったものである必要はなく、事実上一方的にきめることができる」という付帯事項もついている。よく読むと、法案がないのと同じだ。言葉遊びもいい加減にしてほしい。
民間企業は、日常、普通に仕事をこなすだけで、給料を従業員に払っていけるわけではない。役人や政治家と違うのだ。日夜、厳しい競争にさらされており、ちょっと油断すると昨今はすぐに倒産だ。大企業、中小企業とも同じだ。その前提で、どうして能力のない、やる気のない人間を雇い続けることができるのだ。できるはずがない。
たとえ、「年金の支給開始年齢を引き上げる」ことを前提にしても、その責任は民間企業や労働市場になすりつけて終わりではなく、もっと別の解決策を探るのが、官僚、政治家の仕事だ。
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<プロフィール>
富士山 太郎 (ふじやま たろう)
ヘッドハンター。4,000名を超えるビジネスパーソンの面談経験を持つ。財界、経営団体の会合に300回を超えて参加。各業界に幅広い人脈を持つ。
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