「65歳まで再雇用義務化」の問題は、出口のなかなか見えてこない難しい問題である。しかし、これに国民が無関心でいると、日本経済、今日・明日の我々の生活、皆さんの子供世代の経済状況が悪化の一途をたどる。
何よりも、企業コストの負担が急上昇するのだ。関西経済連合会の試算では、再雇用義務化により、企業の人件費の負担増は平成29年に3兆6,000億円まで膨らみ、企業全体の利益を21%押し下げるという。これによって、「企業の海外流出を今以上に加速させ、国内は空洞化し、日本経済の活力が失われる」ことは間違いない。
企業はこのような圧迫された状態で、通常ベースで、事業の継続はできない。必ず、若者の雇用機会、昇進を妨げることにつながる。先の経団連の調査でも約4割の企業が「新卒および若年層の採用を大幅削減する」と、答えている。また、企業は簡単に人件費を増やせない。そこで、「早くから給与の低い子会社に転籍させ、早期退職を促す動きが広がる」可能性もある。
さらに、ベテランを重視しすぎると思わぬ反動もある。日本マクドナルドは平成18年に能力主義に基づいて60歳定年制を廃止した。ところが、「若手社員を育てる文化が育たなくなった」との弊害を生み、今年の1月から定年制復活を決めたばかりだ。
最後に、筆者はこのシナリオを描いた厚労省責任者に問いたい。あなたは、対象と思われる60歳前後のビジネスパーソンを100人以上面談した経験が
あるのか。ないと筆者は確信する。というのは、その経験があるなら、このシナリオは描こうと思っても書くことができないからである。
60歳を過ぎて、自分から働きたい人は、どんなに今まで元気に働いてきたとしても半分以下である。これは、50歳を超えた時点で似たよう様な数字になる。筆者の面談経験の相手は特殊な方たちではない。それどころか、ビジネスパーソンとしては、高いランクに属する人が多い。これは、人格とか、やるきとか、人間性に関する問題ではない。皆疲れているのだ。バリバリ活躍してきた人ほどその傾向が強い。
彼らの多くは、愛国主義者だし、日本社会・日本経済に自分が引き続き貢献していきたい気持ちでいっぱいである。公言もしている。しかし、気持ちだけではどうにもならないのだ。
もし、少子高齢化や年金制度の見直しなど、労働政策の失敗の責任を民間企業と労働市場に押し付けるならば、そしてそんなことが、許されるのであれば、政治家や官僚はいらない。引き続き、この問題は読者の皆さんと一緒に厳しくウォッチしていきたいと思う。
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<プロフィール>
富士山 太郎 (ふじやま たろう)
ヘッドハンター。4,000名を超えるビジネスパーソンの面談経験を持つ。財界、経営団体の会合に300回を超えて参加。各業界に幅広い人脈を持つ。
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