昨年(2011年)2月に2期目に突入した北九州市・北橋市政。福岡県におけるもう1つの政令指定都市の首長として、メディアでその姿を見ない日はないほどに活発な動きを見せている北橋健治市長に、北九州の今と未来、市政の展望を聞いた。
<大きな推進力「緑の成長戦略」>
――まず、昨年1年間を振り返ってのご感想をお聞かせください。
北橋 我が国の経済は、東日本大震災、原子力発電所の稼動停止による電力供給の制約、急激な円高などにより、先行き不透明な状況にあります。とくに史上空前の円高は、製造業のまちである本市にとって、国内生産拠点の海外流出に拍車をかけ、雇用に影響を与える深刻な問題だと言わざるを得ません。昨年は、地域の経済雇用対策を最重要課題と考えて、2期目の公約のテーマに掲げた「緑の成長戦略で人にやさしく元気なまちづくり」を目指した取り組みを着実に推進した1年だったと思います。
――さまざまな施策を打ち出されましたね。
北橋 まず「緊急・経済雇用対策」ですが、リーマン・ショックによる2008年秋以降の急激な景気後退を受け、これまでも「北九州市緊急経済雇用対策本部」を設置して取り組んできました。昨年はこれに加え、6月の当初予算だけではなく、9月・12月と2度の補正予算を編成し、総額約1,580億円の予算を投じて中小企業への支援、就業支援、公共事業を実施するなど、切れ目のない緊急経済・雇用対策を実施しました。こうした取り組みの結果、昨年末には有効求人倍率、月間有効求人数がリーマン・ショック直前の水準まで回復しています。
また、年末には、国の新成長戦略に盛り込まれている「総合特区」および「環境未来都市」について、本市および福岡県、福岡市の三者で国に共同申請した「グリーンアジア国際戦略総合特区」および、本市が提案した「北九州市環境未来都市」がともに選ばれました。
――「環境未来都市」にかける北橋市長の想いは、広く北九州市民に浸透しています。
北橋 キーワードは「環境」と「アジア」です。国の選定は、本市の強みである蓄積された環境関連技術の実用化・ものづくりの高度化を図り、また、アジア諸国との人的ネットワークを活用して国内外の投資を呼び込む。これによって雇用を創出し、地域経済を活性化する新たな成長モデルの創出を目指す「緑の成長戦略」の大きな推進力となると考えています。すでに実績として「アジア低炭素化センター」によるアジア地域におけるプロジェクト案件の発掘や、「海外水ビジネス」の取り組みによるカンボジアやベトナムにおける事業の受注や覚書・協定書の締結がなされました。また、「北九州スマートコミュニティ創造事業」は、昨年国に提案していた20事業がすべて採択されています。
――北九州市の「環境ビジネス」は、全国的にも注目を集めています。後ほど詳しくお教えください。
<2012年の北九州市の展望>
――ここ最近の北九州市の人口動態はどうなっていますか。
北橋 本市の推計人口は、1979年の106万8,415人をピークに減少に転じ、昨年は97万4,287人となっています。少子化によって本市の出生数がピーク時の約4割に減少している反面、高齢化の進行によって死亡者数は6割ほど増えているからです。また、産業構造の転換や急激な円高の進行による工場の海外移転などで、企業の雇用吸収力が低下したことなども要因として考えられるでしょう。
人口減少に歯止めをかけるためには、多くの人に「住んでみたい、住み続けたい」と思っていただけるような北九州市でなければなりません。「人にやさしく元気なまちづくり」を進め、本市の総合力を上げることが重要ですし、企業におかれても雇用増へ向けた協力をお願いしたいと思っています。
――北九州市に活力を取り戻すには、地域経済の活性化と雇用の促進、加えて「人にやさしいまちづくり」が必要となるのですね。地元経済の景況感はどうですか。
北橋 直近の日銀短観や市内企業景況調査でも、多くの企業が景気の先行きに不透明感を抱いているようです。まず第一に「緑の成長戦略」を着実に進めて地域経済を活性化し、雇用の増加を図れる施策を展開していく考えです。
――子育て支援や教育の充実に力を入れていらっしゃいますね。
北橋 本市では「放課後児童クラブ」(※従来の学童保育)の全児童化や、国の基準よりも充実した保育士配置基準を設けることで質の高い保育サービスを提供するなど、子育て支援施策の充実を図ってきました。また、昨年には「北九州の企業人による小学校応援団」が発足し、市内小学校への出前講演や従業員の学校活動への参加促進など、地元経済界にも教育支援に取り組んでいただいています。保護者や地域の皆さまがボランティアで安全対策や教育活動を支援する「スクールヘルパー」も進められていますし、家庭や地域、学校、企業、行政といった地域全体で「子育て力」を高めようと取り組んでいます。これらは、子どもが健やかに成長し、市民1人ひとりが家庭を持つことや子どもを生み育てることの喜びを実感できるまちづくりを目指すものです。
――他方で、北九州は多くの高齢者も抱えています。
北橋 多世代交流による100万本植樹などの「まちの森プロジェクト」や、「公園を活用した健康づくり」を通じて、高齢者が自ら進んで健康づくりを行なえるよう支援をしていきます。また、介護予防、認知症対策はもちろんのこと、「いのちをつなぐネットワ―ク事業」と名づけられた本市独自の取り組みなどを進めて、地域における見守り・支え合いの仕組みを強化し、高齢者がいきいきと社会に貢献できるまちを作っていきたいと考えています。
<変貌する北九州の産業構造>
――昨年は、北九州市の経済に影響を及ぼしそうな大きなニュースが続きました。
北橋 本市の経済は1901年に官営八幡製鐵所が操業を開始して以来、製造業、とりわけ鉄鋼を中心とする素材型産業によって支えられてきました。今も素材型産業は、地域経済に対する大きな役割と影響力を保持しています。加えて、近年は自動車関連産業の立地や情報通信産業、環境関連産業など第3次産業も含め、新たな産業の集積も進んできています。その結果、ものづくりをベースにしつつ、多様で厚みのある産業群が形成されています。
ただ、新興国企業の台頭による競争の激化のみならず、近年の急激な円高の進行や今年10月をメドとした新日本製鐵と住友金属工業の合併、東芝側から発表された北九州工場閉鎖などは、「ものづくりの街」に大きな影響を与える可能性があります。
――行政として、ものづくりの街をどう保ち、どのように新たな産業を創出していく青写真をお持ちですか。
北橋 このような状況の変化を踏まえて、地域経済の成長を牽引する成長産業の育成・集積を図る方針です。まずは、本市の強みである「環境」と「アジア」をキーワードに、昨年12月に指定された「グリーンアジア国際戦略総合特区」を最大限に活用することを考えています。都市環境インフラ技術やノウハウをパッケージ化してアジアの諸都市に提供する、あるいは、グリーンイノベーションをさらに推し進めることで、アジアの活力を取り込んでいきます。
あわせて、外需のみに依存するのではなく、健康、教育など生活課題を解決する産業や観光など、集客交流産業といった雇用吸収力の大きな内需型産業も積極的に育てていきます。目指すのは、ものづくりからサービスまで全産業が支えあう、足腰の強い産業都市です。
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