「正直、独立しようかと思っているんです」とは、小生馴染みのスナックのA店長。その店では最近、経営者が変わった。それまで店を経営していたママさんが、常連客に経営権を譲り、いわゆる「雇われママ」になったという。ところが、そのママに「雇われ」の自覚が足りず、以前としてオーナー気取りで現場の仕切りはA店長にまかせっきり。それでいて、店の売上ナンバーワンが店の娘ではなく、A店長だったりするものだから、「いっそのこと、自分で店持ったほうがいいのでは...」と考えるのも無理はない。野心というより、"危機感"から出た発想と言える。
最近は少し暖かくなってきたこともあり、客足に回復の兆しも見えてきた中洲。しかし、それもピンキリの話で、状況は店によって千差万別。良い常連客をどれだけつなぎ止められているかが店の運命を左右しており、現場の接客内容に求められる要素は高い。
「ラウンジとスナックでは求められる接客も異なる」と、A店長は語る。一時のロマンスを求めるラウンジ客に比べ、スナックはアットホーム的な居心地の良さを求める客が多い。実際に、若い娘がまったくいなくても、常連客で賑わう熟練ママさんの店は珍しくない。A店長も男でありながら、女性スタッフに負けないほどの顧客数があり、その力量は「今の店を辞めたらウチで雇いたい」と、他系列の経営者が目を光らせているほどである。
一方で、目新しいスタイルで、客の関心を集めている店もある。あるキャバクラのグループは、AKB48を意識してか、「会いに行けるアイドル」的な演出、すなわち店の娘によるパフォーマンスで注目を集めている。
中洲活性化のキーワードとして、小生は「AKB」や「街コン」を考える。とくに最近、全国的に街が合コンの会場となる「街コン」が注目を集めている。大勢の人を呼んで、その街の店のことを知ってもらう、店同士が連帯したPR作戦である。2月19日、「灯が消えた」と言われて久しい福岡市中央区天神の親富孝通りで「街コン」が開催され、122名の男女が参加。小生もその現場を見物に行ったが、「ぜひ、自分の地元でもやってほしい」という声があがっていた。
街のポテンシャルでは、中洲は限りない可能性を秘めている。歴史ある飲食店、飲み屋は数多く、ジャンルも多岐に渡り、何度行っても新しい発見がある。いっそのこと、客を男性にしぼらず、女性でも楽しめる企画を立ててみてはどうだろう。店の娘が、キューピッドになり、出会いをサポートする街コンがあってもいいと思う。出会い以外に、男性には、その店の娘に好意を抱くという"セーフティーネット"が用意され、女性には、馴染みのない中洲の飲み屋を職場として知ってもらう効果が期待される。
女性の中洲に対する"理解"が深まれば、世の男性諸君も大手を振って中洲へ遊びに行けるだろう。もっとも、カミさんが店側とツーカーになって「あの店のママなら、ウチの旦那を任せても大丈夫」となれば、それはそれで羽を伸ばすことができないかもしれないが...。
長丘 萬月 (ながおか まんげつ)
1977年、福岡県生まれ。雑誌編集業を経て、2009年フリーライターへ転身。体を張った現場取材を通して、男の遊び文化を研究している。
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