キング社の新島学代表らは居住していた不動産の所有権を失ったわけだが、新たに所有権を得た宣翔物産は、ただちに退去させるのは忍びないと、キング社に手を差し伸べ、両者間で賃貸借契約を結び、新島氏らが引き続き居住することとした。
賃料は月10万円。宣翔物産の主張によれば、「市価の1割程度の破格」の安さであり、それは、特約として、"前期債務承認契約の最終弁済期限(11年6月末日)到来か別段の合意成立までの間の「代表者らの居住場所確保のための一時的なもの」とし、いずれかの事実が生じたとき消滅する"としたためだという。
ところが、事態は双方にとって、そううまく進まなかった。
キング社は、10年7月ころには、負債総額47億4,554万円にのぼり、民事再生申し立てを検討するまでに追い込まれ、宣翔物産に事前の同意を求めて本件代理人とは別の弁護士を通じて交渉。一方、負債総額の65%の債権を持つ宣翔物産にとっては、とても承服できない提案であるため、明確に断った。
キング社が民事再生もできず、事業の好転もできないまま、11年6月末の返済期限を迎え、約束の11億5,000万円を返済することもなかった。
キング社が債務返済を履行しないため、宣翔物産は、担保としてキング社所有の別不動産に設定させておいた根抵当権に基づいて、その不動産を競売(11年9月2日競売開始決定、福岡地裁小倉支部)。競売手続きが開始されたのは、キング社が北九州市八幡西区に所有する小嶺店の土地建物である。
宣翔物産は、債権の回収を図る一方、特約の最終返済期限到来および信頼関係の破壊を理由として賃貸借契約は消滅したとして、建物明け渡し等請求に及んだわけである。
宣翔物産は、キング社所有の博多駅南店を買い取る一方、同社桃園店、小嶺店については、みくに産業株式会社会長の力添えを得て、(株)ゾーンが5年間賃貸し、キング社が不動産収入を得られるように援助してきたのに、同社は5年間準備資金の工面もせず多額の債務免除をもたらす民事再生の要請を繰り返すのみで期限を迎え、もはや信頼関係が破壊されたというのである。
援助と見るか、体よく吸い取られたと見るかは別として、キング社はすでに債権回収会社から11億7,800円余の賃料債権の差し押さえを受けている状態だ。
キング社側は、不動産収入のほとんどを弁済に充当しており、「慈悲の心で対応してもらいたくお願いする」と主張。同時に、前記特約は賃貸借契約書には記載されていないと指摘するとともに、同契約を解除するほど信頼関係は喪失していないと述べている。
果たして、退去せざるを得ない結末を迎えるのかどうか。まだ訴訟は続いているが、もっとも傷が小さくて済んだのが西日本シティ銀行だ。もちろん、この訴訟の当事者ではない。不良債権という"ババ"を手早く他所へ売り抜けて、ゲームから一抜けしたのだから。
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