<現場の混乱が不正につながる悪循環>
不正受給といっても、一概に「生活保護費をだましとった」とされる、収入の無申告や過小申告といったものばかりではない。たとえば、『消えた年金問題』で突然支給された分の申告を忘れ、不正受給となるケースもある。一方で、生活保護を雇用保険の代わりと意識している20代、30代といった若年世代の就労意識の問題もあり、前者と同様、ケースワーカーの指導が必要となるが、負担が増えることでおろそかとなり、結果的にまた不正受給件数が増えるという悪循環に陥ってしまう。
2011年12月の速報値で被保護世帯数の増加を比較すると、福岡市が前年同期比1,860世帯増の2万9,930世帯であるのに対し、北九州市は994世帯増の1万7,858世帯。一方、県南地方の中核都市・久留米市では309世帯増の4,179世帯、その他25市は合計で902世帯増の2万4,723世帯、県が直接担当している郡部では265世帯増の1万4,709世帯と、福岡市が突出して増加数が多いことがわかる。
福岡県福祉労働部保護・援護課は取材に対し、「昨今の家賃価格低下という後押しもあって、生活用品が安く購入でき、公共の交通機関が充実して車がなくても不自由しない都市部への移動が増えている。とくに働ける世代は職を求めて行くケースが多いのではないか」との見方を示した。先が見通せない不況が続く限り、『貧困層の都市部への流入』は、今後もさらに続くだろう。
福岡市では現在、ケースワーカーの増員も図られており、生活保護申請者への対応の適正化が進み、混乱は終息したとしている。10年度以降の生活保護件数はほぼ横ばい状態で、"開放"の方向へ一気に振り切れた針がゆっくりと適正な位置へ戻ってきた状況とされている。
生活貧窮者へのケアは行政が避けて通れない課題であるが、"霞が関"が地域の多様化したニーズをつぶさに把握するには時間がかかる。速やかな施策を打つ場合、より現実的かつ臨機応変なものが求められ、現場の声が活かされたものでなければならない。09年3月の厚労省通知(「職や住まいを失った方々への支援の徹底について」)に見られる国の全国一律的指導は、都市部の人口増加という実情を考慮しておらず、現場の混乱を招いた原因と考えられる。
一方で、国や自治体の財政状況が厳しくなるなか、生活保護にかかる予算を増やし続けるわけにもいかず、地域経済の振興にともなう雇用促進といったを総合的プランが求められる。生活保護の実態は中央集権体制の限界の証左と言える。地域のことは地域で決める「分権型の行政システム」への移行は、もはや喫緊の課題なのではないだろうか。
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