ベスト電器は今年9月、60周年を迎える。50周年の節目を迎えた10年前の2002年は、年末に創業者の北田光男会長が逝去するという世代交代のかたちで歩み始めた。しかし、経営責任をとったはずの有薗氏、濱田氏が依然として経営に対する影響力を行使し、本来ベストが供与すべき利益が得られていないという声もある。何らかの事情を知っていると見られていた深澤氏も、これからのベストの姿を見ることなく昨年5月逝去した。
10年1月の事業構造改革以降、ベストは2度にわたって早期(希望)退職者を募集し、計600人以上の人員を削減。退職希望対象者に対し「当社は今年(2012年)夏に社債の償還がある。7月になれば資金繰りのメドがつかなくなるかもしれない。そうなれば退職金が出ない」など窮状を訴えながら語りかけ、退職を説得された社員もいると聞かれる。売上確保のため販売ノルマが増える一方で、人員削減による店舗の人手不足も生じているようで、現場は血を流しながら収益改善に努めている。
そうしたなかでも、ベストへの希望納入業者(大手メーカー除く)から仲介手数料やリベートの要求などについて是々非々の判断をしていた柳田健一郎営業本部長(常務取締役)が、今年2月の人事で管理本部長に配転された、と親しい友人にもらしていたという。新しい営業本部長は小野浩司現社長が担う。また、投書で「泰陽商事や北田財団のキーマン」とされる緒方政信氏が、経営戦略副本部長兼経営企画部長兼社長室長から営業副本部長兼商品統轄部長を担当することになった。この人事は、どうやら有薗、濱田両氏に配慮したものと聞かれ、そうだとすれば未だに過去のくびき(旧経営陣)が同社の再生を阻んでいる。
本シリーズは、3つの投書と関係者の証言によって紐解いてきた。筆者も投書がなければ、ここで論じたような細かな事情は知り得なかっただろうし、取材でも関係者が口を開くことはなかっただろう。取材できなかったキーマンもおり、どこまで実情を再現できているかはわからない。
ただ、ビックカメラの持分法適用会社になったとはいえ、ベスト電器は連結社員数4,500名を雇用する一大地場企業である。何かあれば、福岡経済に大きな影響を与えるのは明白だ。そのためにも真実を明らかにし、阻害要因は取り除かなければ、真の再生とは言えないだろう。
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