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開幕間近のロシア政治劇「プーチン・パート2」(前)
未来トレンド分析シリーズ
2012年3月19日 10:42
国際政治経済学者 浜田和幸

 5月に予定されるロシア大統領の就任式には各国のトップが顔を揃えることになるだろう。いよいよ「プーチン・パート2」の舞台の幕開けである。

 世界が注目し、「プーチンの目にも涙」と話題になった3月4日のロシア大統領選挙。事前の予想通り、ウラジミール・プーチン首相の大統領返り咲きは決まった。その生き残り能力は、ソ連時代の指導者の比ではない。
 とはいえ、昨年12月の下院選挙後に大規模な反政権デモが起きたように、今回の大統領選挙でも、都市部を中心にプーチン支配長期化への反発が強まっていることも明らかに。

 にもかかわらず、プーチン首相が63.6%という高い得票率で勝利できたのは、当然といえば当然かもしれない。
 なぜなら、ほかの4人の候補者は「昔の名前で出ているに過ぎない」とか「大富豪の売名行為」と揶揄されるように政治基盤が弱く、実質的にはプーチン氏以外に選択肢がない状況であったためだ。

 2000年の大統領選挙ではプーチン氏の得票率が53%に達しなかったことを思い起こせば、今回の結果は決して悪くない。2位のジュガーノフ候補(共産党)は17%、3位のプロホロフ候補(大資産家)だと8%に過ぎなかった。
 言い換えれば、ロシアにおける反政府抗議運動は「反プーチン」で団結したとはいえ、これといった強い指導者がいるわけでもなく、具体的な政策を打ち出すこともなかった。
 それに加えて、独裁的指導者と言われることへの危機感に捕われたプーチン首相が、全国の行政組織を総動員する選挙戦術を展開した点も無視できない。メディアを使い、選挙期間中、政治、経済、社会、国防、外交など7本の重要政策論文を次々に発表。
 さらには、一時、「プーチン首相暗殺計画が阻止された」との報道も流され、テロ対策の名目で反プーチンの動きを押さえようとしたフシも見受けられた。

 たしかに、昨年の下院選挙以来、各地で反政府デモや抗議集会が見られ、逮捕者も増える傾向にあったが、大統領選挙の投票日が近づくにつれ、逮捕者はゼロになった。
 というのも、反政権の抗議行動は首都モスクワでこそ活発化したものの、地方都市にまでは広がらなかったためであろう。
 そのため、プーチン首相は逆に「ロシア社会は成熟してきており、民主主義メカニズムの刷新が求められる。デモの自由を保障する。民主的な選挙だ」とアピールできると踏んだ模様。
 実際、モスクワでこそプーチン氏の得票率は50%以下であったが、地方では安定を指向し、現体制に依存する有権者が圧倒的多数を占めた。

tikyugi.jpg 経済の先行きにも安心感が広がっている。イラン情勢をめぐり緊張が高まり、主な輸出品である原油の値上がりが続いているからだ。ロシアの株式相場は年初来、2割以上も値を上げている。
 欧米諸国によるイランへの経済制裁の強化が進めば、ますますロシア産の原油への需要は高まるだろう。プーチン首相の思惑通りに事態は推移しているといっても過言ではない。
 ロシア人の懐具合も着実に豊かさを増している。2005年の平均月収は8,555ルーブル(約2万1,000円)だったが、2010年には2万1,193ルーブル(約5万3,000円)となった。
 「新しいロシア人」と呼ばれる中間層の厚みが増しており、彼らは抗議運動の中核でもあるのだが、経済的価値観に敏感に左右されやすいのが特徴だ。

 こうした国際情勢の変化や国民の意識をくみ取り、自身への支持拡大へと巧みに誘導することに成功したのがプーチン首相であり、己の戦略の見事な結末に思わず感動したのか、冒頭の涙物語になった次第といえよう。

 いずれにせよ、これでロシアは今後6年、場合によっては12年間にわたり、プーチン大統領の下で再度「超大国」を目指して歩み始めることになる。「ソ連崩壊は20世紀最悪の地政学的な悲劇だった」と主張するプーチン氏。ユーラシア同盟の名の下で旧ソ連の復活を模索している。また、当選を確実にするや、一転して反政府活動家の取り調べや逮捕に踏み切った。

(つづく)

| (後) ≫

<プロフィール>
浜田和幸氏浜田 和幸(はまだ かずゆき)
参議院議員。国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鉄、米戦略国際問題研究所、米議会調査局等を経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選を果たした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。現在、外務大臣政務官と東日本大震災復興対策本部員を兼任する。


 
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