<『経済小説 維新銀行』の連載にあたって>
今回連載する「経済小説 維新銀行」は、ある地方銀行の頭取交代劇を題材にしたフィクションです。
頭取交代劇といえば、最近では日本の名門光学機器メーカー、オリンパスでも「飛ばし」を巡る代表取締役解任劇が発生しました。
オリンパスの菊川剛社長(慶大法学部卒)は、2011年2月10日、年長の日本人幹部数人を飛び越し、欧州事業を率いていた50歳の英国人、マイケル・ウッドフォード氏を後任の社長(4月1日付)に任命すると発表しました。
創業以来92年間の歴史のなかで、外国人が同社トップに就いたことはなく、日本全体でも、外国人経営者は一握りしかいないほど画期的な人事でした。
社長を退任する菊川剛氏は集まった記者に向かって、「ウッドフォード氏が会社を変え
ることを期待している。オリンパスは今後コストを削減し、競争力を高める必要がある。従業員は、新しい社長の下で、グローバルに製品を展開していく企業の恩恵を受けるだろう」と語り、2人は旧友のように冗談を言い合うような親密ぶりを披露しました。
ウッドフォード氏も自分を社長に推薦してくれた菊川氏のことを「気の合う友人」と呼び、会長としてトップにとどまり、改革に対する批判からウッドフォード氏を守ってくれる「核の傘」になぞらえるほどでした。
しかし、菊川会長とウッドフォード社長との蜜月な関係はそんなに長くは続きませんでした。誰も予期し得なかったほど激しくオリンパスを揺さぶる事件が、二人の間で起きたのです。
会長となった菊川氏は実は、「実権はすべて自分の手中にある。ウッドフォード社長は借りてきた猫だ」との認識を持っており、社内の役員間では「ウッドフォード体制は菊川会長の傀儡政権」との認識で一致していました。
そのウッドフォード社長が、就任後間もなく、オリンパスによる過去の医療機器メーカー買収におけるフィナンシャルアドバイザー(FA)への多額の報酬額などに疑念を抱くようになったのです。また独自に依頼した海外監査法人からも「飛ばし」の可能性の報告を受けたことから、一転して菊川会長や森久志副社長に対し、説明及びその責任を取って役員を辞任するよう求めました。
この事態を受けて菊川会長は反撃に転じ、取締役会のメンバーに根回しした上で、社長就任からわずか6カ月後の10月16日、取締役会で突如ウッドフォード氏の社長解任と自身の社長復帰を全会一致で議決したのです。不正を糺そうとして社長を解任されたウッドフォード氏は、せせら笑う役員達から「バスに乗って空港に行け」と言われるほどの屈辱的な扱いを受けたと言われています。
その後オリンパスは、ウッドフォード氏の指摘により「飛ばし」による損失隠しが露見して、菊川社長以下関係した役員は金融商品取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載)で、また飛ばしを指南した複数の野村証券OBも逮捕される証券不祥事に発展することになったのです。
今回連載する「経済小説 維新銀行」は、オリンパスの社長交代劇と同様、新頭取を中心に行内の刷新を推進する改革派と、相談役に退いてもなお実権を握り続ける前頭取が率いる守旧派との確執により勃発した、「頭取交代劇」(クーデター)をテーマに取り上げた、フィクションの経済小説です。
その前に、明治時代に設立された国立銀行が、倒産の危機をいかに回避して現在の維新銀行となったかを、その時代的背景を通して描写することからスタートします。
その後主人公の目を通して繰り広げられる頭取交代劇を取り上げることにしております。ご期待の程、よろしくお願い致します。
| (1) ≫
「この作品はフィクションであり、登場する企業、団体、人物設定等については特定したものでありません」
*記事へのご意見はこちら
※記事へのご意見はこちら