構造設計とは、建築基準法に基づいて、建物が外力や地震などによって安全性の維持に支障をきたす損傷が生じたり、倒壊・破壊しないように設計することを指す。姉歯事件は構造計算書を悪意を持って偽装し、耐震強度を満たしていなかったため、「耐震偽装」と呼ばれた。
<「偽装」の発端>
仲盛昭二氏が「第2の姉歯」とされたきっかけは、2006年2月8日の福岡市の記者発表だった。仲盛氏が開設したサムシング(株)が構造設計したマンション3件の建築確認時の構造計算書について、福岡市が「計算に一貫性がなく建物の荷重を軽減して計算を行なう不正操作が判明した」などと公表。国土交通省も同日、同様に公表した。姉歯事件の耐震偽装を受けて、全国各地で行なわれた一連の調査のなかで、福岡市が発見したものだった。
<一転、安全宣言>
のちに、福岡市はこの3件の建物について、福岡市側と仲盛氏双方の再度の検証等によって「耐震強度を満たしている」と安全宣言を出した。
当初の発表は、安全性について確定的な判断ができていなかったわけだ。福岡市が「構造計算書に意図的な不正操作があり、危険な建物による被害を未然に防ぐ」目的で情報を公表したのはやむを得ず、行政としては当然の措置だったとも言える。また、仲盛氏も同じ理解をしている。
しかし、当事者の仲盛氏は、たまったものではない。マスコミの取材に追い回され、所属していた1級建築士事務所は設計業務が困難になった。
こうして仲盛氏の孤独なたたかいが幕を開けた。問題とされた最初から「トップである私に責任がある」と、自分1人が矢面に立ってきた。「会社にいた建築士は今も建築士として働き家族を養っていますから、波及させるわけにはいかない」と語る。また、「私に仕事をくださった意匠設計者および施主に絶対に迷惑をかけられない」との思いから、「孤独なたたかい」の覚悟を決めた。
サムシングが構造設計し福岡市などが調査対象とした約800件の建物の安全性を確認するため、構造計算の再計算に5年間の長期にわたりかかりっきりとなり、膨大な時間と労力がとられることになった。
<「役人のスケープゴート」>
構造計算をめぐって、福岡市と仲盛氏は激しく対立したが、仲盛氏はこんなエピソードを明かす。福岡市の検証物件のなかの1つについて、構造計算プログラムを作った会社が違うプログラムを用いて「数字が整合しない」と福岡市の検証担当者が発言したというのだ。仲盛氏は言う。
「信じられない発言です。プログラムが違えば、すべて違うのは当たり前のことです。要は、私を役人たちのスケープゴートの"いけにえ"にしたかったにすぎません」。
安全性をめぐって、仲盛氏は「耐震強度を満たしていない物件は1つもない」と言い切る。自らが実際に、設計図などをもとに一から入力し構造計算をし直して、サムシングが受注した物件のうち調査対象となった約800件のほぼすべての安全を確認したからだ。「ホームランを打つだけが野球じゃありません。コツコツが大事」と、仲盛氏は語る。
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