<大阪都構想が注目される理由>
その、橋下の大阪都構想は、2010年3月に「大阪維新の会」が発表した行政構想である。わかっている範囲で書くと、現在の大阪市域の24区を合併し8区に統合、近隣の堺市は7つの区を3区に再編、周辺9市も区として再編し、大阪都20区に再編するものらしい。要するに、東京23区とそれ以外の多摩地域の市町村というイメージだ。
この構想に関しては、前市長の平松邦夫やそのブレーンから批判があるが、東京都民からすれば、別にまったく違和感はない。大阪都区の住民は東京23区よりは小ぶりだが、この人口も大阪が発展すれば増えるだろう。問題は東京都でも言えることだが、「都議」の位置づけである。都議は無理に選出せずともよく、各区、各市町村の議会から代表者を都議会に送るだけでも別に良い。この都議の位置づけは、大阪都構想でもおそらく問題になるはずだ。ただ、今の大阪市では区長は公選制ではなく、この点が東京都と違っている。いずれにせよ、東京都で大きな問題になっていないので、うまく運営できれば、仮に大阪都に再編しても問題にはならないだろう。
また、大阪都に似た構想は1953年、1955年、2001年、2002年、2004年などにも府議会、財界から出されている。戦前は東京と張りあった「大大阪」(だいおおさか)なる言葉もあったほどだ。水道事業、大学、図書館、港湾など似通った事業が府市別々で行なわれる「不幸せ(府市あわせ)」などという笑えないジョークもあるほどだから、二重行政解消という橋下の主張に積極的に反対する理由は見当たらない。
それよりも、重要なのは大阪都構想が去年の大震災後、別の意味を持ってきたということである。橋下府知事(当時)は、去年の震災直後の4月27日、「関西をバックアップ首都の拠点にするべきだ」ということを述べている。「大阪・関西は中枢機能を補完しうる地域」との主張で、中央リニア新幹線の整備も含めて大阪都と東京都の連携を求めており、これには石原都知事も賛成のようだ。ただ、リニア敷設は橋下が求める脱原発路線と矛盾している。
この関西バックアップ首都構想は、副首都構想とも呼ばれる。2005年4月に、「国家危機管理国際都市(NEMIC)構想」の推進のため、東京でテロや災害が起きた場合のための、危機管理都市としての位置づけである。震災直後、霞が関のなかで、関西に首都を移す可能性について真剣に検討されたといううわさ話を私も耳にしたことがある。
「危機管理都市推進議員連盟」というものがある。議員362名が参画して超党派で設立されて、現在も180人ほどが参加する。この議連のトップが関西の民主党のドンとも言える、石井一(いしいはじめ)参議院議員である。震災前から大阪の伊丹空港の閉鎖とその跡地利用と絡めて議論されたプロジェクトである。石井の主催するこの議連の勉強会では去年11月に橋下をゲストに呼んでいる。橋下は、「伊丹空港跡地の副首都に大阪府庁などの官公庁を移転する案」を披露している。
この議連の思惑としては、やがて訪れる可能性が高い新たなる関東大震災を「武器」にして、関西への分権化への説得材料とし、自立経済圏となると同時に、その過程では中央からのカネも引っ張ってくるというものだろうが、地方分権を議論するなかではいずれは避けては通れない道だろう。先に述べた「大大阪」もまた、「関東大震災で被災した住民、企業の大阪移住」によって沸き起こった議論だったのである。ただ、この大大阪構想は東京市復興やその後の統制経済による東京一極集中(つまり霞が関の主導した1940年体制)によってしぼんでいく。その後、戦後も間欠泉のように大阪の強化という文脈で出てきたものである。
<プロフィール>
中田 安彦 (なかた やすひこ)
1976年、新潟県出身。早稲田大学社会科学部卒業後、大手新聞社で記者として勤務。現在は、副島国家戦略研究所(SNSI)で研究員として活動。主な研究テーマは、欧米企業・金融史、主な著書に「ジャパン・ハンドラーズ」「世界を動かす人脈」「プロパガンダ教本:こんなにチョろい大衆の騙し方」などがある。
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