最近、日本の政治がおかしいのは、総理大臣の野田佳彦を筆頭に松下政経塾出身の政治家が増えたからだという意見がある。塾出身以外の国会議員や政治評論家からは、「松下政経塾が日本を悪くしている」というそんな厳しい声まで聞かれる。
見栄えや要領は良いが、中身がない。目立つことばかりやっていて、何となく信用できない。ひと言で言えば「軽い」というのである。
松下政経塾に関する本が今年になって数冊刊行された。筆者は、必要があり、すべてに目を通してみた。しかし、残念ながら、この本を除いて、鋭く真実に迫っている本はなかった。データの羅列だけだったり、単なる対談や四方山話だったりした。なかには、政経塾擁護とも思える、"ガス抜き"みたいな本さえあった。
「襤褸」とは、使い古しの布やぼろきれのことである。松下幸之助が掲げた「松下政経塾」という旗は、いつしか色褪せ、今や原型を留めないほど、継ぎはぎだらけになっている。
著者は、取材を進める内に、1993年の衆院選で巻き起こった「新党ブーム」が松下政経塾にとって"終わりの始まり"という結論に行きつく。新党ブームの主役は、日本新党を率いた細川護熙(元熊本県知事)であり、その細川を支えたのが政経塾の出身者だ。
この時、塾から一気に15名の国会議員が誕生。野田佳彦や前原誠司といった現在の民主党幹部の多くがこの選挙で初当選している。
その成功体験が余りにも強烈(政治家としてはもちろん、社会人としての経験すら乏しい若者たちが一気に国政の舞台に連れて行かれたのだ)だったことで、大きな負の遺産が生まれた。
その後は革命家集団としての矜持を忘れ、欲望が堰を切った様にむき出しになり、その欲望が、松下幸之助の野望さえも飲み込んでいくのである・・・。
同書は350頁におよぶ力作であるが、とてもドラマチックでいっきに読むことができる。
<プロフィール>
三好老師 (みよしろうし)
ジャーナリスト、コラムニスト。専門は、社会人教育、学校教育問題。日中文化にも造詣が深く、在日中国人のキャリア事情に精通。日中の新聞、雑誌に執筆、講演、座談会などマルチに活動中。
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