＜オバマ大統領のCHANGEが失敗した理由＞
　ただ、私はここで言いたいのは、橋下徹・大阪市長は、単なる権力欲ではなく、真に国家の統治制度を変えたいと思っているのであれば、国政進出は少なくとも次の衆議院選挙ではなく、次の衆院選まで、最低でも４年間は待つべきだということだ。

　私は橋下市長をめぐる騒動を見ていると、同じ弁護士出身で上院議員一期目にしていきなりアメリカ大統領になった、バラク・オバマを思い出さない訳にはいかない。オバマもまた、既成権力にがんじがらめになった政治を変えようという触れ込みで、商品取引所などがあり、大阪に似ているイリノイ州という土地から立候補した。ところが、やはり上院議員一期目の途中での立候補ということからもわかるように、中央政治の泥臭いところを知らないオバマは、結局はゴールドマン・サックスやシカゴの政財界の創り上げた「作品」でしかなかったことが、就任後一年もたたずしてわかってしまった。そんなオバマに世界中はまるでロックスターを相手にするかのように熱狂し、ノーベル平和賞まで与えてしまった。この熱狂ぶりは異常だった。オバマが上院議員としてどの程度の業績を出したのかわからないまま、アメリカ国民は彼を大統領に選んだわけだ。

　橋下市長も、去年まで３年９カ月務めた、大阪府知事の経験はあるものの、大阪市、あるいは大阪府という地方公共団体の改革が途中である。中央の政党が機能不全だからといって、拙速に作った維新塾で、一部は地方行政経験はあるものの、ほとんどが素人の自称「志士」たちを中央政界に送り込んでも何もできないまま終わるだろう。

　日本に昔から私塾（しじゅく）の伝統がある以上は、政治家を育成するための私塾というものはあってしかるべきだ。大阪は富永仲基の懐徳堂（かいとくどう）など、江戸時代から町人文化が栄えたところだ。だが、今や官僚（財務省）主導政治の権化となった、松下政経塾の無残な失敗からもわかるように、政治家というものは塾だけで育成されるわけではない。いきなり国政を目指すのではなく、まずは最初に掲げた大阪という自治体のスリム化を含めた「成長戦略」を地方分権時代に似合う形で行なっていくべきだ。今は、既成政党に対する反発で、「維新の会」にバブル的に注目が集まっているが、政党はうたかたの泡のように消え去っていくべきではない。本当の真価が問われるのはバブルが消えた後の話である。だから、４年間は地方政治の現場だけに維新塾のメンバーを送り込むことに専念し、次の2013年の衆院選から４年間は、実勢に見合った「政策づくり」を民間財界人らの手を借りて行なっていくべきだ。

　橋下市長は、当初はマニフェストと同等に位置づけていた「維新船中八策」を、塾開講前になって、「単なるレジュメ」のようなものとトーンダウンさせた。私もレジュメとやらをダウンロードして読んでみたが、議論が煮詰まっていない部分も、かなり多かった。基本的には小沢一郎時代の民主党のマニフェストか今の「みんなの党」のアジェンダと近い。維新の会が国政を目指すのであれば、まずは小沢時代の自由党が掲げた、「日本一新11法案」のように、具体的な法律案まで制度設計する必要がある。何度も言うが、促成栽培では必ず失敗する。４年間はじっくりと風が吹こうがやりが降ろうが、国政進出は慎重であるべきだ。

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