熊本県最南部に位置する水俣市と聞いて、真っ先に思い浮かべるのは、世界的にも有名な水銀汚染公害『水俣病』ではないだろうか。その影響で、教科書に載っていた灰色で暗い水俣市のイメージが強く残るなか、現地生産者と協力し事業展開を行なう(株)ネローラ花香房の代表取締役である森田惠子氏に、国内初となるオーガニックネロリ事業の取り組みだけでなく、本当の水俣市についても話を聞いた。
<国内生産困難なネロリを水俣の甘夏から抽出>
「ネロリ」というものをご存知だろうか。ネロリとは、ビターオレンジの花を蒸溜して得ることのできる芳香成分のこと。古くから北アフリカ地方の生活文化のなかで、薬用や食用として各家庭で受け継がれてきた。かつて中世では、イタリア・ネローラ公国の公妃がその香りに注目。フランス社交界に紹介したことで世界的に知られるようになる。その後の研究などで、ネロリには高い保湿成分、抗酸化作用(エイジングケア)があることが判明。高級化粧品原料として、ヨーロッパでは非常に有名な成分だ。
現在、ネロリ化粧品の開発・販売を行なっている(株)ネローラ花香房代表取締役の森田惠子氏だが、もともとは化粧品業界の出身ではない。20代の頃からYMCA、YWCAなどの国際交流団体でアフリカやアジア地域との国際交流事業に携わっており、北アフリカとの交流のなかで、現地の家庭でつくられているネロリの存在を知ったという。
森田氏によれば、ネロリは近年まで日本国内での生産はできないと考えられていたという。しかし、甘夏みかんの花でビターオレンジの花の代用ができることを知った森田氏は、自分たちでオレンジフラワーウォーターをつくってみることにした。
「温州みかんではネロリをつくることができません。花の時点では良い香りがしても、抽出するとなくなってしまうからです。甘夏みかんのようなクセがあるものでないと、つくれないようですね」と森田氏は語る。
現在、熊本県は全国一の甘夏みかん生産量を誇っている。「水俣病の患者さんたちが、漁業ができないときに始めたのが甘夏の栽培です。自分たちが体を痛めつけられていますから、無農薬であることに非常にこだわって生産されています」(森田氏)。
また、ほかの地域は時代とともに、甘く食べやすい柑橘類に転換していったが、水俣では初期段階で直販の販路を形成していたため、転換は行なわなかった。そのため現在でも、水俣の無農薬甘夏の生産比率は全国に比べて非常に高いという。
「水俣の皆さんは、食料としての甘夏に長く関わっています。そのため、食料以外の認識はありませんでした。実際に蒸留水をつくってみたら非常に喜んでくださったので、途中で引けなくなってしまいました」と笑顔で語る森田氏は、国内初のネロリ化粧水の事業化に向け、本格的に取り組むこととなる。
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■甘夏ネロリの里花摘みツアー2012 in 水俣
5月3日、5日に水俣にて、ネロリの花摘みツアーが実施されます。
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<プロフィール>
森田 惠子(もりた・けいこ)
(株)ネローラ花香房代表取締役。20代の頃からYMCA、YWCAなどの国際協力団体で、アフリカ、アジア地域との国際交流事業に携わる。NPO法人「くまもとレインボープロジェクト」の代表を務めていたなかでの縁もあり、ネロリを使った化粧品に携わるようになる。2009年1月に法人化し、事業を本格化させた。
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