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経済小説

「維新銀行」~第一部 夜明け前(17)
経済小説
2012年4月13日 10:00

<第三章  植木頭取時代>

長期政権の弊害(5) 

 1981年の晩秋のある日、赫子の心を見抜くように麻雀を終えた久間は、珍しく一人でレッドシューズに現われた。いつものごとく赫子を指名した。朝から雨が続き、夕方からは霙まじりに変わる悪天候となったため、先客は一組しかいなかった。その客たちも久間の入店を見て、潮時とばかりに早々と引き上げていった。

y_t_1.jpg 一人となった久間の周りにホステス達は寄ろうとしたが、知り合いのボーイが気を利かしてそれを制した。赫子と暫く一緒に飲んでいたが、閉店の12時前に久間は店を出た。程なくして赫子が那珂川沿いの待ち合わせの場所に姿を現わすと、二人は燃え滾る感情を抑えることができなくなった。人目を憚ることなく腕を組み、中洲の夜の帳の中に消えていった。

 久間と赫子が中洲の夜を共にしてから間もない11月の下旬、麻雀仲間が博多支店の支店長室に集まった。農業用資材を取り扱う会社の川中輝夫社長、加工鋼材を取り扱う会社の安田道夫社長、鍍金加工会社の清家敏一専務の3名である。

 当時の維新銀行博多支店における支店長の貸出権限は小さかった。単名貸出は金額500万円以内、期間1年以内。商手は30,000,000円以内。1年を超える貸出金は、例え100万円の少額であっても本部稟議が必要であった。

 2年前の1879年に発覚した定期証書偽装事件を反省材料として、植木頭取は事故の再発防止を徹底するため、組織の見直しと本部権限の強化に着手した。その一環として支店長の融資権限も縮小されることになった。

 久間支店長は貸付担当者を呼び、事前に了解を得ていた麻雀仲間の3人の個人名で、それぞれ貸出手続きするように指示した。チェックライターで\5,000,000-と印字された約束手形3枚、銀行取引約定書および借入申込書各3通が用意された。川中社長が債務者の署名をすると、残り二人が手形面に保証人として署名押印をしていく。順次債務者が変わるたびに交互に二名が保証人となる。借り入れ条件は、「期日1年以内、返済は期日一括、金利は9%で、利払いは3カ月毎」とし、無担保の単名貸出であった。

 支店長権限をフルに使った3本の貸出金500万円、合計1,500万円の融資は支店長権限内の貸出として即日実行された。利息を差し引いた489万円が現金でそれぞれ引き出され、1,467万円が久間支店長の手に渡った。赫子の夢であったクラブ「赫子」の開店に向けての、最初の関門が開かれることになった。  
 

(つづく)
【北山 譲】

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「この作品はフィクションであり、登場する企業、団体、人物設定等については特定したものでありません」


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