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経済小説

「維新銀行」~第一部 夜明け前(18)
経済小説
2012年4月16日 07:00

<第三章  植木頭取時代>

長期政権の弊害(6)

 翌日の午後に、小林赫子は博多支店に久間支店長を訪ねて来た。赫子は応対に出た女子行員に案内され、2階の支店長室に通された。
 久間は昨日預かった1,467万円と赫子が持参してきた33万円を合わせた1,500万円を、小林赫子名義の1年定期とするよう預金担当役席に指示した。預金の役席を呼んだのは、あくまでも赫子が持参して来たように見せかける演出であった。

 赫子名義の定期が預け入れられた数日後、男子行員達は年末に実行する貸出稟議を書くため、遅くまで残って仕事をしていた。支店長の久間は麻雀をしない日は、8時過ぎには店を出ていたが、この日は行員の仕事が終わるのを待っていた。

neon.jpg 9時を過ぎる頃になって、
 「おい、そろそろやめようじゃないか。レッドシューズの赫子が今月一杯で辞めて、独立すると言うので、行ってやろうじゃないか」
 と、切り出した。2~3名の男子行員が声を掛けられた。久間の顔を見て断れる雰囲気ではないのを悟って、仕事を途中で切り上げてから中洲の町へ繰り出していった。
  11時半過ぎた頃、男子行員達は、
 「翌日の仕事がありますので、そろそろお先に失礼します」
 と、申し訳なさそうに久間に伝えると、意外にも久間も上機嫌で、
 「それじゃ 引き上げるか」
 と、言って、一緒に店を出た。
 「おれはもう一軒寄って帰るので、先に帰ってくれ」
 と、行員達に告げ、いつもの待ち合わせ場所で赫子が来るのを待った。やがて二人は一時の快楽を求めて那珂川沿いを南に歩き、ネオン煌めく清川のホテル街へと消えていった。

 年が改まった1982年1月初旬のある日、小林赫子が博多支店を訪れると2階の支店長室に通された。間もなくして麻雀仲間の一人である川中社長も支店長室に入って来た。久間は川中に労いの言葉を掛けながら、貸付担当者に貸付の書類を持って、至急支店長室に来るように電話を掛けた。
 
 クラブ「レッドシューズ」を年末に辞めた赫子が、中洲にクラブ「赫子」を開業する資金を融資するための書類であった。債務者は小林赫子で、保証人は川中輝夫。借入金額は2,000万円で、期間5年(据え置き期間3カ月、57回の分割払い) の証書貸付とし、金利は9.5%で稟議することで話が決まった。
 川中が小林赫子の借入の保証人に応じたのは、川中の経営する会社が本社用地購入資金として8,000万円の融資を博多支店で受けたばかりであり、久間の申し出を断り切れない事情があった。久間は保証人の川中に対して、決して迷惑を掛けることはないと再度念を押すことを忘れなかった。

 川中は久間の言葉に促され、用意された借入申込者や金銭消費貸借証書、その他貸出書類に署名押印を終えると、支店長室を後にした。

【北山 譲】

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「この作品はフィクションであり、登場する企業、団体、人物設定等については特定したものでありません」


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