<問題解決の次元が違っている>
3月29日、東京大学の浜田純一総長は学部の春入学を廃止し、国際標準である秋入学に、5年後を目途に全面移行していく方針を固めた。他の国立大学、有力私立大学にも参加を呼び掛けている。
高校卒業(3月)から大学入学(9月)と大学卒業(9月)から入社(4月)までの合計約1年間の「ギャップターム」の懸念を棚上げしたまま結論を出した。
この政策で、外国人留学生の増加、日本人学生の海外留学が促進されることは期待できない。問題解決の次元が違っており、政策と予測される効果がまったく噛みあっていないからだ。
どこに問題があるのか。大きく三つに分けて考えていきたい。
一番目の問題点は、とても根本的なものだ。教育改革は(1)入試(2)教育(3)就職のセットで考えていかなければならない。今回は、その内、(1)の入試・入学のみに焦点を当て、それも内容でなく時期だけの問題だ。外国人留学生はそんなに愚かではない。
自分の一生を決めるかも知れない大学、大学院を選ぶのに、時期のみを最優先する人間はいない。
この問題が起こって、留学生の意見が新聞、雑誌に多数載った。やはり言葉の問題は大きい。英語というと、すぐに一般・社会人の英語力がテーマになるが、筆者は、こちらの方が重要と思っている。ビジネスマンに限って言えば、英語はあくまでも道具であり、話の中味の充実度で補完可能だからだ。
一方、大学教員の英語力はごまかすことができない。例えば、中国は10年以上英語を勉強するので、必然的に英語圏留学が第一志望となる。日本の大学、大学院でも、英語で試験を受けられる体制を今以上に整える必要がある。さらに進んで、中国語、韓国語等の受験も促進すれば良い。
この問題で最も注目すべきことは、英語で講義できる教員がほとんどいないことである。
進路を考えても、研究者の研究成果は英語論文誌の認知度が高い。英語圏留学が圧倒的に有利なのだ。日本の大学も英語のプログラムや研究環境をしっかり整備しないと魅力的にならない。現在、日本の上位の国立大学教員でも、海外大学の博士号取得者は驚くほど少ない。
ところで、入学時期の問題であるが、日本への留学生は94%がアジア圏からである。中国、台湾は9月入学であるが、韓国は3月、最近、東大が秋波を送っているインドは日本と同じ4月、タイは5月である。"秋入学"は、この点からも、急ぎ進める理由になっていない。
なぜ、決定を急いだのか、文部科学省の意図がわからない。何か裏があるのだろうか。
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<プロフィール>
富士山 太郎 (ふじやま たろう)
ヘッドハンター。4,000名を超えるビジネスパーソンの面談経験を持つ。財界、経営団体の会合に300回を超えて参加。各業界に幅広い人脈を持つ。
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