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経済小説

「維新銀行」~第一部 夜明け前(25)
経済小説
2012年4月25日 10:30

<第四章 植木頭取時代>

次期頭取誕生までの栄光と挫折(2)

money.jpg 戦前、銀行員の給与は一般の企業と比較すると高く、労使関係は良好であった。しかし終戦と共に経済活動の混乱に伴い銀行経営も厳しさを増したため、利益配分のなかからベースアップの交渉を余儀なくされるようになった。そのためベースアップを見送られることもあり、団体交渉を通じてベースアップを勝ち取っていく民間企業の俸給と比較して優位性はなくなり、銀行員の間からは不満の声が上がるようになっていた。

 丁度そのような状況のなかで福岡銀行の従組は、1953年(昭和28年)6月5日、経営側に対して要求書を提出した。その中身は従来の労使交渉が利益配分を巡るベースアップ闘争に加え、退職手当規程の改正、長期療養者対策などの生活権擁護闘争を含む過激な内容であった。

 この要求書は、6月中旬に東京で開かれた地方銀行協会の会合に出席した頭取に伝えられた。各銀行の頭取は、福岡銀行の頭取に対し組合の要求を断固反対するように激励する一方、自分の銀行の組合活動が過激化しないように対策を講じることが急務となった。 

 維新銀行が組合対策の切り札として中谷亮二の採用を急いだ理由が、福岡銀行の労使間の争議を取り上げた下記資料(出典:日本労働年鑑第27集1955年版発行1954年11月5日 編著法政大学大原社会問題研究所 発行所時事通信社)から、時系列に読み取ることができる。

 生活水準の戦前復帰をめざす全銀連傘下の共同闘争に備えて、福岡銀行従組では1952年(昭和27年)11月から、ベースアップ、退職手当金規程の改正、長期療養者対策の三つの目標を掲げて要求案を練り、長期にわたる慎重な検討と大衆討議を経て、1953年6月5日、左のような要求書を提出した。

 この要求の特徴は、これまでの給与闘争が多分に利益配分闘争の傾向をもっていたのに対し生活権擁護闘争を強くうち出し、能率給の拡大に反対して生活給を確保することを中心にしたことであった。ベースアップ要求においては、同一年齢間の給与格差の縮小、男女初任給の撤廃、労務行員の給与の引上げを重点にした。退職手当については、勤続30年停年退職者最低150万円以上、行員5年勤続退職者最低5万円以上、行員傭員の差別撤廃を基本方針にした。長期療養者対策では、勤続年数の如何にかかわらず、従業員は最低3年以上の生活および身分保障、勤続10年以上の従業員は最低5年以上の生活保障と死亡または停年になるまでの身分保障を受けることを重点としていた。

(つづく)
【北山 譲】

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「この作品はフィクションであり、登場する企業、団体、人物設定等については特定したものでありません」


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