先日、行きつけの店長が「独立したいけど家賃が下がらない」とボヤいていた。数年前に比べると、随分と空きテナントは増えているし、現在進行形で店をたたむところもチラホラ。一応、出店もあるが、通りを歩けば「空きテナント」の表示を目にする機会は増えている。デフレ経済と言われるなか、家賃が下がらないのは一体どうしたことか――。
テナントが空いたままでは家賃収入がゼロなのは言うまでもなく、遊ばせているくらいなら、いっそのこと家賃を下げて借り手を探したほうがいいのではないかと思えるが、中洲の事情はそう単純ではない。
7、8年ぐらい前から東京、大阪、名古屋といったとこの繁華街から中洲に進出してくる経営者が年々増えている。そうした"よそ者"にしてみれば、中洲はまだ可能性のある市場であり、テナントの賃料についても比較的安いと感じられるレベル。ピーク時からたいして下がっていないと言われる中洲大通り沿いの物件のほとんどは、こうした「外資系」(中洲以外の資本)が入れ替わっているのである。
ざっと計算してみたところ、現在、中洲大通り沿いのテナントが1坪2万5,000円前後であるのに対し、同じ中洲でも大通りから外れると1万7,000円前後。15坪の店舗なら家賃の差は月12万円となる。なお、福岡都心部でも中洲以外なら、店舗物件で1坪1万円を切るものも珍しくない。
飲み屋のコストはそのほとんどが人件費と家賃。同じ店舗面積で家賃の差は客単価でうめていく。客単価をあげるためには、それに見合うサービスが求められる。言うまでもなく飲み屋の場合は、人件費(女の子の給料)が上がる。したがって、低料金でありながら客の満足度をあげるには並々ならぬ経営努力が必要となる。大通り沿いで低料金をうたい、長年続けている店はそれだけで信頼できる店と言えよう。ちなみに、もうかっている店の条件は3日で家賃以上の売上を出すこと。何度か同じ店に通っていれば、大体、その店の行く末も見えてくる。
「不景気もどこ吹く風」で家賃が下がらない大通り沿いの物件。もはやそれに手を出す地元経営者は少なくなっているが、一方で「外資系」が入れ替わりやってくる。物件のオーナーとしてみれば下手に家賃を下げると損をするケースもあるのが実状だ。
そのようななか、中洲から飛び出し、今は郊外で飲食店を営む元キャバクラ店長がいる。「ひとりでやっている分、人件費はかからないし、家賃も安いから、昔いた店よりも利益率がいい」と元店長。"中洲脱出組"が成功するケースも増えてきそうだ。
長丘 萬月 (ながおか まんげつ)
1977年、福岡県生まれ。雑誌編集業を経て、2009年フリーライターへ転身。体を張った現場取材を通して、男の遊び文化を研究している。
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