前回に続いて、文部科学省の脳死の検証である。文部科学省は、3月末に学生の海外留学に積極的に取り組む大学への支援制度を創設することを決めた。「内向き志向」が指摘されている日本人学生に留学を促し、国の内外で活躍できる人材の育成を目指す。40校程度を対象に1校当たり、年間1億円~2億円助成し、5年間継続する。総額約400億円の
プロジェクトである。
このばら撒きに近い400億円はゴミと消える。海外留学の"肝"は手取り、足取りしなくてもよい、たくましい自立した人間を育てることだ。スタートから、その精神を放棄して、成功するわけがない。
最近の調査では、たとえば米国への留学者数は、中国13万人、インド11万人、韓国7万人に対し、日本は6万人(ピーク時は8万人)である。さらに、産業能率大学が3年ごとに実施する「新入社員のグローバル意識調査」(2010年)によると、2人に1人が海外で働きたくないという結果だ。だからと言って、大学まで国際人としての基礎教育を受けていない学生に、急に海外留学を促そうと考えるのは99%無理である。
大学支援というアバウトな政策でなく、"一律均等"よりむしろ"機会均等"の方策を講じるべきである。学生に自発的に海外留学試験を受験させ、一定の留学試験に合格したものだけに、多くの奨学金を出せば良い。海外留学の最大の障害は、本人の勉強不足以外は、学費・渡航滞在費という経済的な問題だ。これであればフェアである。もちろん、帰国後の祖国への一定の貢献が条件だ。
「新入社員のグローバル意識調査」を詳しく見ると回答は、大きく。(1)海外で働きたいとは思わない(49%)(2)国・地域によっては働きたい(24%)(3)どんな国・地域でも働きたい(27%)の3つにわかれる。27%も海外志向の若者がいるのだ。
この27%の予備軍に、資本投下をすればよい。海外志向を持つ若者を育てるには大学入学後では難しい。小・中学校からの教育政策を変更する必要がある。だからと言って、筆者は「小学校からの英語教育」に賛成しているわけではない。詳細は別の機会に譲るが、国際化教育には、"英語"より重要なことがたくさんあるからだ。
産業能率大学の調査内容にも、"平和ボケ"が見られる。質問は大きく、A.海外で働きたいと思うか B.外資によるM&Aについてどう思うか C.外国人トップ・上司に対して抵抗を感じるかの3つにわかれる。このBとCは不要である。「避ける方法がある」かの様な誤解を与える。
避けられないことを前提にすべきなのだ。近々の例だけでも、レナウン、三洋電気、シャープ、NECなどと枚挙に暇がない。今後も増えることはあっても、減ることはない。
「自分は国内派である」とか「抵抗感ある」とかの回答は意味をなさないのだ。
外資によるM&Aも外国人トップ・上司も想定内と認識すべきだ。最近、若者が些細な変化でも、"キャリアショック"を起こし、精神的に病む原因の多くもここにある。
この社会人としての教育・自覚は、大学に入学してからも、十分身に着けることが可能である。
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<プロフィール>
富士山 太郎 (ふじやま たろう)
ヘッドハンター。4,000名を超えるビジネスパーソンの面談経験を持つ。財界、経営団体の会合に300回を超えて参加。各業界に幅広い人脈を持つ。
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