<ガン首を挙げろ>
ワイドショーや新聞の社会面で大々的に報道されるような記事、たとえば連続殺人など凶悪性の高い事件や猟奇的な事件などの場合、マスコミはこぞって「ガン首を挙げろ」のかけ声で当該事件の容疑者の顔写真を入手するために近隣住民に突撃する。その結果、容疑者が女性の場合は、高校の卒業アルバムからコピーしたのかと思われるような制服の少女の顔写真が紙面を飾ったりする。
ところが、会社のトップ交代でも同じようなことが発生するということを私は知った。
社長交代の前日深夜、私はニュースリリースを発信する前の最後の校正をしていた。
何度やっても公表資料の校正には気を抜けないものだ。そうしていると携帯電話が鳴った。懇意にしている新聞記者だ。
「石川さん、夜分に済みません。実は、御社の社長交代の情報を掴んだのですが、岩倉新社長の顔写真をいただけませんか」
さすがに、敏腕記者は情報が早い。本件で外部に相談したのは銀行だけのはずだから、そちら筋からのリークか?あるいは...、と思いながら聞いた。
「そうですか?そちらが独自の情報源に基づいて御社の責任で報道をするのは、私は止めることはできません。ただ、私は公的には何も知りませんよ」と私。
「それでは写真だけはいただけませんか」と記者も食い下がる。
「公式に認めていることではありませんので、残念ながらその便宜を図るわけにはゆきません」
そう言って私は断った。
岩倉新社長は、県立高校を卒業してボウリング場に勤務しているところそのお父さんから頼まれてDKホールディングスに入社した人だ。専務なので、そういう経歴はすでに表に出ていた。だから、もしかしたら詰襟の学生服を着た顔写真を新聞は出してくるか、と思ったが、はたして翌日の当該経済新聞の社長交代欄には、写真なしで当社の社長交代が報じられていた。
<プロフィール>
石川 健一 (いしかわ けんいち)
東京出身、1967年生まれ。有名私大経済学卒。大卒後、大手スーパーに入社し、福岡の関連法人にてレジャー関連企業の立ち上げに携わる。その後、上場不動産会社に転職し、経営企画室長から管理担当常務まで務めるがリーマンショックの余波を受け民事再生に直面。倒産処理を終えた今は、前オーナー経営者が新たに設立した不動産会社で再チャレンジに取り組みつつ、原稿執筆活動を行なう。職業上の得意分野は経営計画、組織マネジメント、広報・IR、事業立ち上げ。執筆面での関心分野は、企業再生、組織マネジメント、流通・サービス業、航空・鉄道、近代戦史。
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