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REBIRTH 民事再生600日間の苦闘(5)~売れない物件
経済小説
2012年5月 2日 07:00

<売れない物件>
img.jpg 2008年4月1日、黒田社長は会長兼CEO、岩倉専務は社長兼COOという新体制が始まった。決断するにあたって黒田会長は、事前に主要な取引銀行4行を回り、その意図を報告した。この時期、不動産に対する銀行の融資姿勢はやや厳しくなり、時折、新興デベロッパーやファンド会社の倒産が聞かれていた。当社でも、1物件ではあるが、期末までの決済を持ち越してしまっていた。
 しかし、まだ金融システム全体が揺らぐというほどの状況ではなかった。DKホールディングスの08年3月期決算も売上・利益ともに過去最高を記録することは確実だった。

 そのようなことからか、銀行も社長交代に対して特段反対を唱えることはなかった。
 ただひとつ、融資残高がもっとも大きかったメガバンクの地区部長は、黒田会長が代表権を維持し、CEOを兼ねるならば、と、ちょうど私が考えたのと同様の意見を述べたそうだ。

 代表取締役の異動は、取引所の開示ルールのなかでも重要事実として位置づけられている。このため、取締役会で正式な意思決定をすると同時に取引所が開設するTDNETというシステムにニュースリリースを登録することによって、これを適時開示した。

 これに加え、当社としては初の社長交代であるため、総務の責任者として、どのようなことをしなければならないのか皆目見当がつかず、田辺課長とともに、「挨拶状を急ぎ対応する必要がありますね。」「各銀行に報告して口座の名義も直さないと。」「就任披露パーティをするべきでしょうか。」というように、考えられる内容を書き出し、適宜打ち合わせしつつ進めていった。

 まだ、そこまで景気が悪くなっていなかったこともあり、社長交代は好意的に受け止められた。
 「今のようにいい時期だから交代するのです」
 「新興不動産会社では30歳代の社長が当たり前です。今度岩倉社長も40歳になるので、ちょうどいいタイミングと考えました」
 「永続的な企業としては後継者を育成しなければなりません。そのため、私も代表権を持って社長を指導してゆきたいと思います。日常的な業務執行は、私が年末年始をハワイで1週間過ごす間、会社からの連絡は皆無でした。それくらい、権限委譲ができているので社長に任せていきたい。あとは、特殊物件や財界活動、長期戦略といったことにCEOとして取り組んでいく所存です」
 黒田会長は取材や銀行からの問い合わせに対して、意気揚々とこのように答えていた。

 この頃、会社では大分に初めて建設したビジネスホテルの売却が、買手ファンド側の資金調達の不調で滞っていたが、いまだ私たちの状況判断としては、これまで何度も乗り越えてきたのと同じレベルの困難であるに過ぎないとの認識であった。

(つづく)
【石川 健一】

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<プロフィール>
石川 健一 (いしかわ けんいち)
東京出身、1967年生まれ。有名私大経済学卒。大卒後、大手スーパーに入社し、福岡の関連法人にてレジャー関連企業の立ち上げに携わる。その後、上場不動産会社に転職し、経営企画室長から管理担当常務まで務めるがリーマンショックの余波を受け民事再生に直面。倒産処理を終えた今は、前オーナー経営者が新たに設立した不動産会社で再チャレンジに取り組みつつ、原稿執筆活動を行なう。職業上の得意分野は経営計画、組織マネジメント、広報・IR、事業立ち上げ。執筆面での関心分野は、企業再生、組織マネジメント、流通・サービス業、航空・鉄道、近代戦史。


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