<同じ轍は踏まないが>
新興不動産会社の多くは、最初は地道に仲介業や分譲業に注力して営業する。
マンション分譲系の会社であれば、たいてい最初は大資本が不要な販売代理業で創業する。賃貸仲介から会社を大きくしていく例も多い。こうして販売代理や仲介で稼ぎ、ある程度の資金が貯まったところで土地を仕入れ、開発に打って出るのが不動産業界の成功パターンである。
そうして開発に打って出てしばらくの間は、マンションの開発と販売に注力し、地道に業績を上げていく。するとその間に、なかには売上が100億円以上になったり、上場に成功したりする会社も出てくる。売上100億円なら経常利益は数億円になる。これであれば新興市場への上場の資格は形式的には十分である。数多くある不動産仲介業者や販売代理業者だが、こうして上場企業まで発展すれば一大サクセスストーリーである。
不動産会社の経営者で上場まで達成すれば、それは周囲が持ち上げてくれる。
とくに銀行。
銀行の融資案件といっても、地方都市では製造業の設備資金などはほとんどなく、勢い、どの銀行も不動産融資に走りがちである。当然、住宅ローンはどこの銀行でも最優先で取り組んでいるが、アパートローンなども一般には知られていないが各行とも大変に力を入れている。そういう銀行融資の受け皿となる物件を開発するデベロッパーという存在は、銀行がとてもちやほやしてくれる。
デベロッパー自身も開発資金のほとんどを銀行から借りるのでなおさらだ。そういうなかでも軸をブラせずに主力事業に注力していけば、新興市場から東証にステップアップすることも夢ではない。
しかし、実際には、周囲よりちやほやされ、財務的にも余裕が出てくると経営者が取り組みたくなるジャンルがある。それがリゾート物件である。これは何十年前から変わらない、不動産業で成功した経営者のパターンである。
新興不動産会社がリゾート開発に乗り出す理由はいくつか考えられる。
第一に、好景気が続き、地価が上昇してくると、大都市部でまとまった規模の土地を仕入れるのが難しくなる。その結果として、地方都市の土地やリゾート地の土地を狙わざるを得ないようになる。
第二に、好景気が続くことにより個人消費が活発になり、リゾート地のホテルの稼働率が高まる。すると新規のリゾートを開発しても採算が取れてくる。
第三に、経営者の生活においても、贅沢を楽しむ機運が高まり、夢の実現としてリゾート開発に取り組んでいくのである。フェラーリを買ったり、プール付の豪邸を建てたりするのと同じ感覚だ。
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<プロフィール>
石川 健一 (いしかわ けんいち)
東京出身、1967年生まれ。有名私大経済学卒。大卒後、大手スーパーに入社し、福岡の関連法人にてレジャー関連企業の立ち上げに携わる。その後、上場不動産会社に転職し、経営企画室長から管理担当常務まで務めるがリーマンショックの余波を受け民事再生に直面。倒産処理を終えた今は、前オーナー経営者が新たに設立した不動産会社で再チャレンジに取り組みつつ、原稿執筆活動を行なう。職業上の得意分野は経営計画、組織マネジメント、広報・IR、事業立ち上げ。執筆面での関心分野は、企業再生、組織マネジメント、流通・サービス業、航空・鉄道、近代戦史。
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