<第四章 植木頭取時代>
次期頭取誕生までの栄光と挫折(8)
事態の悪化を憂慮した福岡県知事、福岡市長、福岡商工会議所会頭三者の要請を受けて、地労委が調停および仲裁に乗り出すことになった。7月17日に地労委の勧告があり、組合側は了承したが経営側はこれを拒否する声明を発表。
深刻な事態となった福岡銀行のストは、第5次吉田内閣(バカヤロー解散後の5月21日に発足)の7月18日の閣議で取り上げられ、小坂善太郎労働大臣は事態の収拾を図るため、労働省の事務官を急派することを決定。前代未聞の銀行ストのニュースが新聞やラジオを通じて全国に大々的に報じられることになった。
この報道を受けて、維新銀行の絹田頭取は総務部長に谷本とともに頭取室に至急来るよう、電話をかけて来た。絹田は、
「福岡銀行の労働争議は政府や日銀が乗り出してきており、現経営陣はいずれ経営責任を問われることになる。今後この争議がどのように終息するかは予断を許さないが、いずれにせよ他の銀行にも波及する可能性がある。この様なことが当行では絶対起こらないような体制を至急構築してほしい」
と、話を切り出した。
谷本は大きく頷き、
「対応策を今まとめていますので、至急稟議させていただきます。今から福岡に行って、報道後に経営側と組合側がどのような対応をするのか、この目で確かめたいと思います」
と、答えると、
絹田は、
「しっかり実態を把握して、当行の組合対策に万全を来たすようにして下さい。しっかり頼みますよ」
と、谷本に優しい声をかけることを忘れなかった。
これより先、10日には県知事、市長、県商工会議所会頭三氏の要請、17日には地労委の勧告があり、組合側は了承したが、銀行側はこれを拒否した。また同日、頭取は記者団と会見して次のように発表した。
1、ストの背後には全銀連がある以上、組合要求を丸呑みしても問題は解決しない。
2、1万7000円以上は一銭も出せない。
3、ストライキについては非常に困ったものだが、今ここで組合案を呑めば経営者として落第だ。
4、この様な状態が続くなら銀行は潰れてしまうかもしれないが全国銀行のため断乎闘う。
18日、極少数(12名)の脱落者があったが団結は固く、この日以降支店各所でもストに入った。
銀行ストのニュースはようやく中央のジャーナリズムでも大きく問題にされ始め、18日には閣議で、福銀スト解決のため労働省の事務官を福岡へ急派する旨決定したと新聞やラジオで報道された。
20日には、「反動の拠点にて証券センターの天神町支店」の無期限スト、県下15支店の時限ストがおこなわれた。この日、天神町支店では、福岡証券取引所関係者約50名と合流した脱退組が、「ワッショイ、ワッショイ」の喚声をあげてピケラインを突破し、ピケ隊員を突き飛ばして、土足のままカウンターを乗りこえて強行執務する騒ぎがおこった。
また銀行は取引者代表約30名を動員して組合執行部と会見し、
「われわれはアカに指導される銀行には預金しない」
と、叫んで三役の吊し上げを始めたが、集まった200名近い組合員によって逆に説得され、先の発言を失言として取消した上、感激して組合側と握手し、最後には組合を激励して帰った。
「この作品はフィクションであり、登場する企業、団体、人物設定等については特定したものでありません」
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