反原発活動を長年にわたり続けてきた田中優氏は、節電と自然エネルギーの活用による「原発に頼らない社会」を提言し、全国各地で精力的な講演活動を続けている。NET-IBでは、原発から政治・経済・社会問題など幅広いテーマで、同氏によるコラム「優さんコラム」の連載を開始する。
<タイ貧困地域を変えた「経済」の仕組みとは>
講演会で熊本に出かけてきた。タイトルはなんと「経済」。こういうざくっとしたタイトルをいただくと悩むことになる。でもいただいたタイトルだから、自分なりの考えをきちっと出すしかない。
思うに、「経済」とは単なる説明概念にすぎないのではないか。経済はいつも外から考えるものになっていて、自分が作り上げるものではない。しかし地域経済の活性化と呼ぶときには、自分たちで作るものだ。実態から言うなら、「金融」の方がずっと適切だろう。カネの流れこそが経済そのものだからだ。しかし本当は「金融」というカネの流れだけが「経済」ではない。概念として狭すぎるのだ。お金を使わない経済も当然存在する。その現実の例が朝市のような「市」という仕組みだ。
私は関わっている一つのNGOに、「日本国際ボランティアセンター(JVC)」がある。その活動拠点の一つが、タイのイサーン地方と呼ばれる東北部だった。
借金苦があり、家族を売り払うような悲惨な貧しさに苦しんでいた。その地の産業は農業だ。と言っても伝統的なものではなく、1970年頃から始められたものだった。彼らが収穫した作物は村に買いに来るバンコクからのバイヤーに売り、必需品もまたバンコクから売りに来るバイヤーから買っていた。売るときと買うときと、両方で搾取されていたのだ。
JVCはその彼らを日本の地域に招いた。その彼らが山形県内で、「これだ!」と言って持ち帰ったものがある。それが朝市だった。人々は朝市に自分の生産したものを持ってくる。買うのもまた同じ地域の人たちだ。人々は何かを持ってきて、何かを担いで帰っていく。行きと帰りの姿は「物々交換」しか起こっていない。
しかし価値が違うからメジャーが必要で、そのためにだけカネを用いている。つまりここで起きているのは、「貨幣を使った非貨幣経済」なのだ。これにはてきめんの効果があった。売るときも買うときも搾取されないからだ。
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<プロフィール>
田中 優 (たなか ゆう)
1957年東京都生まれ。地域での脱原発やリサイクルの運動を出発点に、環境、経済、平和などの、さまざまなNGO活動に関わる。現在「未来バンク事業組合」「天然住宅バンク」理事長、「日本国際ボランティアセンター」 「足温ネット」理事、「ap bank」監事、「一般社団 天然住宅」共同代表を務める。現在、立教大学大学院、和光大学大学院、横浜市立大学の 非常勤講師。『シリーズいますぐ考えよう!未来につなぐ資源・環境・エネルギー①~③』(岩崎書店)、『原発に頼らない社会へ』( 武田ランダムハウス)など、著書多数。
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