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脱原発・新エネルギー

【考・原発】九州大学副学長・吉岡斉氏インタビュー(4)~劣った技術を実用化した罪
脱原発・新エネルギー
2012年5月14日 07:00

 2011年3月11日、東日本を襲った大地震は、日本人の原発に対する思いまで変えてしまった。これまで「原発は安全だ」と言われ続けてきて、原発に対して盲目的な信用を置いてきた一般市民の多くが、それは間違いだったことに気づいたはずだ。原発とどう向き合っていけばいいのか。九州大学副学長で福島原発事故の政府事故調査委員会のメンバーである吉岡斉氏に、原発に対する考え方とこれからの方向性を聞いた。

<技術は遅々として進化せず>
 ――事故はたしかにひどいものでした。マニュアルにも不備があったと思います。しかし、逆に考えると、わからないところがわかったとも言えるのではないでしょうか。すると、今回の反省を活かして今後運用していくのならば、より安全なシステムが構築し得るのではないでしょうか。

 吉岡 マシにはなるでしょうね。防潮堤はかさ上げされますし、ディーゼル発電機を高い所に置いておくことになったりするなど、反省は活かされていきますから、マシな状態にはなると思いますよ。福島では消防車が役立ったので、それを配置するなどですね。消防車の放水ポンプの水圧が問題なのもわかりました。7気圧くらいしか対応できないのを、もっと強くするといった対応も具体的なものになります。あるいは、浜岡原発ではすでにやっていましたが、淡水を1基あたり2万トンや3万トン、貯蔵タンクに蓄えておくといった対応も重要なことがわかりました。

 ――その手立てを講じたとしても「マシになる」というレベルであって、根本的な技術的な問題は残り続けるということですね。

 吉岡 そうです。たとえば放射性廃棄物の問題は解決のメドが立っていませんし、運用を続ける限り、廃棄物は溜まり続けますから。

 ――原子力というのは、どん詰まりの技術なのでしょうか。今は技術水準が低いためにリスクが高いだけで、将来、より安全なものにすることができる―そういう種類の技術なのでしょうか。不安定な原子を安定させる術であったり、漏れを完全になくす技術であったり、廃棄物を無害化できるシステムであったりというものは、実現できないのでしょうか。

yosioka.jpg 吉岡 それは期待できません。原子力発電は、技術の進歩がものすごく遅いのです。ある人はマークワン(福島第一原発で使われていた沸騰水型軽水炉の格納容器)は"T型フォード"で、最新のものは"フェラーリ"だと言っていました。これは誤った認識だろうと思います。一般的な技術なら、半世紀もすればすばらしい進化が得られます。たとえば、1960年頃につくられた日本の自動車の代表は、「パブリカ(1961年、トヨタ)」や「スバル360(1958年、富士重工業)」などです。それらの自動車と今の自動車を比べると、半世紀でずいぶんちゃんと進化していることがわかります。家電も同じです。かつての憧れの的は14インチの白黒テレビでしたが、今では大型薄型テレビです。

 そういった一般的な産業技術と、原子力技術とは異なります。原子炉の進化は驚くほど遅いのです。ですから、寿命を超えても運転し続けようとしているわけです。自動車で言うならば、T型フォードが現役で走っているようなものなのです。黎明期の研究者はもっと進歩が速いと思ったから、30年くらいで新型炉が生まれ、ずっと経済効率も良いものに変わっていくだろうと思っていたのですが、全然そうではありませんでした。安全性はたしかに高まっています。最新型の欧州軽水炉は、格納容器を二重にして、安全性を高めています。しかし、それでも今回の規模の事故が起こったならば、あまり意味はなかったでしょう。

(つづく)
【聞き手・文:柳茂嘉 構成:清水秀生】

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<プロフィール>
yosioka_p.jpg吉岡 斉(よしおか・ひとし)
1953年富山市に生まれる。東京大学理学部卒業。現在、九州大学にて教鞭を振るいつつ「東京電力福島原子力発電所における事故調査・検証委員会」(政府事故調)のメンバーとして活躍。近著「新版 原子力の社会史 その日本的展開」(朝日新聞出版)など。趣味は登山。


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