2011年3月11日、東日本を襲った大地震は、日本人の原発に対する思いまで変えてしまった。これまで「原発は安全だ」と言われ続けてきて、原発に対して盲目的な信用を置いてきた一般市民の多くが、それは間違いだったことに気づいたはずだ。原発とどう向き合っていけばいいのか。九州大学副学長で福島原発事故の政府事故調査委員会のメンバーである吉岡斉氏に、原発に対する考え方とこれからの方向性を聞いた。
<危険度ABCでランク付けを>
――それだけ危険な原発を、まだ電力会社は稼働させたいとしています。今回の事故を見てもわかるように、一企業では到底手に負えないシロモノです。止めればいいといっても、お金もかかりますし、代替エネルギーも考えなければなりません。原発は現実に存在しています。そうすると、今ある原発をどうするべきと、お考えですか。
吉岡 今からしばらくの間のことに限定するならば、何年間かは止めざるを得ないと思います。その後、現実的な方法としては、「ランク付け」をするべきだと思います。環境省の下に安全庁をきちんとつくり、そこで厳しい安全審査の基準をつくり直して、1つひとつ検査をして格付けをしていくのです。ランクを「A」「B」「C」の3段階で、比較的安全な「A」、少し危険な「B」、相当危ない「C」というように分け、「Cランクは即時停止、廃炉の手続きに踏み切る」といった具合です。Cランクには、たとえば浜岡原発、もんじゅ、もしかしたら玄海原発の1号機が入るかもしれません。Bランクは"仮免許運転"のように、夏の電力消費が高い時期だけ運転させるとか、そういうかたちをとり、一方で寿命を30年なら30年ときちんと決めるべきだと思います。今は石油の価格が高いので、石油火力を旺盛に使えば、市民の生活への影響が出てしまいます。それを考えると、Bランクも夏期には使うのが適当ではないでしょうか。1バレル100ドルの時代に石油で電気をつくるというのは、"札束発電"のようなものだというのがやはりありますから。新規に原発を建設せず、寿命がきたら廃炉の手続きに入る。そして、30年くらいのうちに日本から原子炉がなくなる、というシナリオが適当であるように思います。
――ABCのランク付けをやってみるとして、吉岡先生の予測ではどういう割合になるとお考えでしょうか。
吉岡 だいたい3分の1ずつくらいになると思います。Cがやや多いかもしれませんね。福島第一と同型のマークワンが、全国に11基もありますから。マークワンはフラスコとドーナツがパイプでつながり、再循環ポンプがぶら下がっているという、美学的にはあり得ない構造をしています。原子炉メーカーのGEは後発組ですから、とにかく安くつくってウェスチングハウスを追いかけようとがんばったのでしょう。構造が複雑になりすぎました。それらは軒並みCに入りますから、Cが4割くらいになるかもしれませんね。
――日本の原発の4割を停止させ、3割を仮免許にし、残りも使用期間に制限を設けて安全のうちに使い切るということですね。大変勉強になりました。原子力の問題は、今、直面している大きな問題です。早く道筋をつけなくては、次がいつあるとも限りません。市民1人ひとりが考えなくてはいけませんね。ご多忙のなか、まことにありがとうございました。
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<プロフィール>
吉岡 斉(よしおか・ひとし)
1953年富山市に生まれる。東京大学理学部卒業。現在、九州大学にて教鞭を振るいつつ「東京電力福島原子力発電所における事故調査・検証委員会」(政府事故調)のメンバーとして活躍。近著「新版 原子力の社会史 その日本的展開」(朝日新聞出版)など。趣味は登山。
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