<処理のスピードアップが急務>
昨年10月より、JESCO、各事業所のある自治体、PCB処理に詳しい大学教授などが集まって、「PCB廃棄物適正処理推進に関する検討委員会」を開催。遅れを取り戻すための打開策を練っている。
2001年に採択された、ストックホルム条約(PCBなど環境に害を及ぼす残留性有機汚染物質の製造・使用を禁止するなど汚染物質の減少を目的として締結されたPOPs条約)では、28年までにすべてのPCB廃棄物の処理を終えるということが、国際上のルールとして決まっている。現状のペースのままでいけば、低濃度のPCBは、未処理のままに終わってしまうこととなり、悠長にしているとストックホルム条約に違反してしまう可能性さえある。国際的に、日本の無策ぶりをさらけ出すことになる。
また、処理能力が向上されないままだと、高濃度PCBについても、処理の遅れが積み重なり、ストックホルム条約に期限を超えてしまう可能性もある。言うまでもなく、処理のスピードを上げなければならない。
環境省が検討会で出した推計(表参考)によると、特別措置法の期限である2016年までに処理を終えるのは、北九州・東京・大阪事業所の車載トランスと豊田・北海道の小型トランスの5項目のみ。その他17項目は、期限を超えてしまうことになる。また、豊田事業所の車載トランス、東京事業所の大型トランスにいたっては、このままいけばストックホルム条約の期限である2028年を大幅に超え、それぞれ36年、37年までかかってしまうことになる。
JESCOでは、処理施設を増強して、北九州事業所などの処理が進んでいる施設に、豊田事業所などに残っている車載トランスなどを運搬し、北九州事業所で処理をするといった方策によって、処理スピードを速める目算を立てている。
JESCOは、「ただ、施設の能力を上げすぎても事故の元になりかねない。最大の課題は安全確保だと考えています。比較的早期に着手できた北九州事業所でノウハウを積んで、地元の理解をいただきながら、処理を完了したい」と、施設の持っている処理能力、稼働率を100%に近づける努力をしていくとしている。
JESCOでは、「2018~23年までに終わらせる」という試案を環境省に提出している。ただ、2016年を越えて処理を続けるには、各自治体の理解が前提となる。
大規模な施設で行なわれるため、処理に時間とコストがかかるのは事実。環境省では、「見合ったコストでやっている」という認識を示している。処理スピードの加速化のために、施設の改造、施設の増強などを行なっていくとしているが、時間とコストが見合っているかどうかには、疑問も残る。
<一部で焼却式開始>
遅れを取り戻すため、高濃度のPCB廃棄物についても、焼却処理方式を採用しないのか―。
検討会では、その件についても議論されているが、環境省は「現状、すでにある施設を利用し、化学方式での処理を進めるのが前提」としている。
ただ、濃度の低いPCB廃棄物については、国、地方自治体の認可を受けた業者が、焼却処理を開始。東京臨海リサイクルパワー、クレハ環境、エコシステムなどが、微量PCB汚染廃電気機器などについて、焼却による無害化処理に着手している。
処理を促進するために、新たな試みに挑戦する動きも出ている。微生物や植物を利用して、生物学的分解を行なう研究が進められている。
山形大学の研究チームが、PCBを分解する微生物を発見。その研究を活用するベンチャー企業を設立した。実用化されれば、コスト削減とスピードアップに寄与しそうだ。バイオの力での環境修復(バイオレメディエーション)に期待されるところで、現在、実用化に向け、微生物を活用した微量PCBの分解機器などの開発を進めている。
また、タイに高濃度PCBを処理できるリサイクル工場を設立し、日本から高濃度PCBを持ち運び、リサイクル処理する計画案もある。この計画が実行された場合、プラントの処理スピードも速く、費用も約3分の1程度で済むという。
ただ、最も効率が良いのは、87年より2年間で高濃度PCB約1,600トンを処理した実績がある、鐘淵化学工業の燃焼方式だ。しかし、この方式は前述の通り途中で打ち切りとなり、電力・製鉄・重工を中心とした体制に変わった。環境省は「地元の理解が得られなかった」とし、専門家は「国と大手企業の癒着」を指摘した。どちらが正しいのかはわからないが、カネカによると、「当時の処理装置はすでに使えなくなっている」という。自分たちが製造したPCBが社会問題化し、自らの責任を取るべく鐘淵化学が導入した高効率処理装置は、すでに幻のものとなった。
<負の遺産を次世代に残すな>
PCB処理に着手するまでの段階で約30年間を要したが、やはり後手を踏みすぎている。"20世紀の負の遺産"とも言えるPCB廃棄物。長きにわたって放置し、後回しにしてきたツケが、今、回ってきている。16年までの4年間で、本気になって取り組み、未来につなげなければならない。
処理は本格化の兆しにはあるものの、PCB特措法で定められた期限までに処理を完了するのは、現状では絶望的な状況にある。環境省の開いている検討会での議論を経て、地方自治体の理解を得たうえで、16年を過ぎてからも処理を続けることになる見込みだ。
JESCOでは、「国の出資でできている会社ですので、約束に外れないように、改善すべきところは改善して、できるだけ早く終わらせたい」としている。だが、果たしてギアチェンジは、スムーズにいくのかどうか...。
一刻も早く完了するため、費用・時間ともにロスを極力少なくし、処理を進めることが求められている。負の遺産を、次世代に残してはいけない。
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