福岡市職員の自宅外での飲酒を禁じる『禁酒令』は、前代未聞の措置として全国的な話題になった。新聞各紙のみならず、全国番組でも紹介され、のっけから賛否両論となっている。とくに飲食店関係者は、「自宅外での酒が禁止されれば、市職員が仕事帰りに外食する機会が確実に減ると思う」「ちょっと1杯が減るだけでも店にとってはイタイ」などと、営業への影響を懸念している。
今回の措置は、一連の市職員の不祥事にともなう綱紀粛正だ。直接のきっかけとなったのは、17日の市土地開発公社用地係長の収賄事件に絡み、福岡市役所でも家宅捜査が行なわれた直後の18日夜のこと。港湾局職員(市営渡船機関長)によるタクシー運転手への暴行事件、そして、こども未来局職員の同僚への傷害事件が発生したことだ。
禁酒令の対象となるのは、福岡市の正規職員および市教職員の計約1万6,300人。少なく見積もって、その10%(1,630人)が仕事帰りに「ちょっと1杯」(生ビール500円で試算)をすると約80万円。禁酒1カ月間(5月21日~6月20日)で平日は23日、1カ月で計約1,800万円の「ちょっと1杯」がなくなることになる。
外食に行く機会そのものが減れば、当然ながら酒にともなう料理やおつまみも注文されない。また、外食へ行ったとしても食欲を促進するアルコールが摂取されないことで、注文の量が減ることも予想される。とくに市職員御用達の飲食店においては、1カ月間の売上に多大な影響がおよぶことは必至だ。しかしながら、そうした民間の飲食店に、今回の一連の不祥事における責任は微塵もないはずだ。
それゆえ、「市職員の一部が起こした不祥事のツケが民間に回されるようなもの。到底、納得できない」という、不満の声があがっている。問題の本質は『飲酒』という行為そのものではないということは誰が考えてもわかるはずだ。極端な話だが、ソフトバンクホークスの野球観戦をしていた市職員が他球団のファンに暴行した場合、「自宅外での野球観戦を1カ月禁止」となるのだろうか。
不祥事の発生日の翌日というタイミングでの決断は、いよいよ「待ったなし」という危機感の表れとも言えるが、「市役所の飲酒風土は長年問題視されていた」(市関係者)という。ペナルティで少しだけの間、酒を断てばいいというものではなく、『分限処分』(公務の適切な運営などを目的とした免職・降任・降給など)までも視野に入れた強いリーダーシップによる組織の引き締めが必要なのではないだろうか。
※福岡市の正規職員および教職員に重複があったため合計で「約1万6,300人」と訂正しております。(5月24日午後6時30分)
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