近年、世界各国の研究機関や企業は二酸化炭素の削減技術やCO2の固定化技術の開発にしのぎを削っている。
これまでも藻類を活用したCO2の固定化や藻類バイオマスの研究開発も推進されてはいるが、残念ながら生産効率や製造コストの面において大きな課題が未解決であり、いまだ本格的な事業化には至っていない。我が国の将来にとって、自然界との調和や物質循環を基盤とする社会を目指すというのであれば、この分野にこそ資源、人材、資金を投入する価値があるというものだ。
景気の停滞が続く日本にとって、新たな活路を見出す上で、「海洋大国」という立地条件を冷静に分析し、あらゆる海洋資源の有効活用を官民挙げて追及することが絶対的条件となるだろう。地球の持つ自然エネルギーの中で、最も高い潜在力がありながら、未開発のままなのが「海の恵み」である。これこそ日本の宝といっても過言ではない。
このお宝を味方につけるためには、日本近海において効率よく藻類からエネルギーを生産する研究開発体制はもちろん、それ以外の海洋エネルギーとの融合(ベストミックス)のあり方を見極め、全体的なシステムマネジメントの発想で臨む必要がある。でなければ、宝の持ち腐れになってしまう。
とにかく、海洋エネルギーを活用した次世代発電計画も進行中である。これなどは風力や太陽光発電を上回る豊富な電力を生み出す可能性があり、IHI、東芝、東京大学、三井物産戦略研究所による共同研究が実施されている。
日本近海を流れる黒潮は世界有数の流れの速さで知られる。言い換えれば、膨大なエネルギーの宝庫だ。現在計画中の発電機の容量は2,000キロワット。これを2,000基設置すれば400万キロワットの発電が可能となり、原発4基分の発電量に相当する。この技術が確立すれば、世界中の強い海流域での導入が促進され、まさに「海洋技術大国」の海外貢献策として新時代を画することになるだろう。
一方、こうした研究の成果を産業化に結び付けるには、バイオマス・エネルギーや洋上風力エネルギー、さらには潮流発電エネルギーなどの海洋エネルギーを最も効率良く確保する仕掛けを構築すべきである。いわば、こうした多様な海洋エネルギー資源をベストミックスの状態で活用できるようにし、さらには海洋からの高付加価値資源を獲得するために大規模な洋上プラットホームが必要となるだろう。
こうした洋上プラットホームは海洋地域における生産活動のための拠点にとどまらず、将来的には新しい漁場の開発や海洋環境の改善に役立つ海洋インフラ基地としての機能を備えたものが望ましい。なぜなら、我が国はこれまで、メガフロートの実用化を通じて様々な研究成果を蓄積してきているからだ。
今後は、新しいタイプの「海洋イカダ」の実現を目指し、基礎研究から実証実験までの連続した開発プロセスを加速させる必要がある。そうすれば、領土、領海の保全や自主防衛という国防上の観点からも有効な対策の一助となるに違いない。離島の活性化にも有効な武器になるだろう。日本の総合的な安全保障や食糧の自給力を高める上でも検討に値しよう。
さらに言えば、我が国は従来から養殖漁業が盛んであり、魚介類や海苔、昆布、わかめなどの藻類の養殖、加工技術は世界のトップレベルを保持している。こうした高い養殖、加工技術を擁する国内地域と海洋資源創生のためのプラットホーム構築を有機的に結び付けることにより、水産業の再生や新たな水産加工業を起こすことも可能となる。
日本経済の活性化には、こうした地域の産業基盤の強化にエンジンを入れる必要があるということだ。いわば、日本全体の再起動のためにも、新たな雇用を生み出すきっかけにするためにも、「海からの贈り物」を再認識することがスタート地点に立つことになる。
こうした海洋資源創生エネルギーと高付加価値海洋資源を組み合わせたスマートコミュニティー構想こそが、陸と海、そして空が一体化する新しい「海洋国家・日本」に相応しい産業構造のあり方に発展するに違いない。
今こそ日本社会の閉そく感を打ち破り、洋々たる成長産業の大海に船出するために、海洋大国の潜在資源に命を吹き込む時である。「海からの恵み」に感謝しつつ、その資源力の活用に大いなる知恵を働かせようではないか。
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<プロフィール>
浜田 和幸(はまだ かずゆき)
参議院議員。国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鉄、米戦略国際問題研究所、米議会調査局等を経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選を果たした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。現在、外務大臣政務官と東日本大震災復興対策本部員を兼任する。
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