「これでもう3軒目よ。『もうイヤ、店を閉めたい』って」と言って、携帯電話をテーブルに置き、老人は語った。かつて中洲で数軒もの店を経営し、引退した後も中洲のママから店の経営で相談を受けている御大である。
「客が全然入っていないらしい。市長さんのせいかなあ...。禁酒令がきいとるとやろか」とため息。すると、また御大に電話がかかってきた。「気をしっかり持ちんしゃい。山あり谷あり、明るく前向きにやっていれば、かならずお客さんはくる」と励ましの言葉。
中洲歴ウン十年という百戦錬磨のママでさえ悲鳴をあげている。
5月21日から始まった福岡市職員の1カ月間「自宅外禁酒」は、福岡市役所をはじめ、お役人の職場周辺の飲食店の営業に少なからず影響をおよぼしている。
中洲も例外ではない。店によって差はあるものの、とくに常連客が固定化している小規模のスナックなどで、それもお役人が中心となれば、悲惨な状況であることは想像に難くない。昨今の風当たりの強さから、もともと中洲で派手に遊ぶお役人は減っているらしく、とくに"夜の蝶"がおもてなしをする、高級クラブやキャバクラなどでは「(禁酒令の)影響をそんなに感じていない」というが...。
NET-IBの記事によると、今回の「禁酒令」には、正規職員のほか、嘱託・臨時の職員やアルバイトまで、約2万名のお役所関係の人たちが影響を受けているそうだ。先日、小生の飲み仲間のお役人から「周りの目もあるので市内(中洲)では飲みにくい」と、飲みの誘いを断わられた。彼は市役所関係の役人ではないが市内に職場がある。同様に現在、外で酒を飲むことに腰が引けている市以外の役人も多いのではないだろうか。
アンケートなどを見ると、飲食店関係者を除けば、「禁酒令」に賛同している市民は多いようだ。この様子だと、1カ月の禁止期間が過ぎた後もしばらくは、店で酒を飲むお役人に冷たい視線が向けられるのではないか。今回の「ショック療法」は、『自宅外飲酒アレルギー』という症状さえも起こしかねないように感じる。
小生なら辛抱たまらず、「ここが自宅」と住民票を中洲の店に移して飲むだろう。お酒との付き合い方、悪酔いしないですむノウハウを知っているお歴々に、小生も何度となく助けてもらってきた。中洲にはたくさんの"ママ"がいる。
長丘 萬月 (ながおか まんげつ)
1977年、福岡県生まれ。雑誌編集業を経て、2009年フリーライターへ転身。体を張った現場取材を通して、男の遊び文化を研究している。
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