<第五章 谷本次期頭取誕生の軌跡>
協力者たちとの絆(7)
早速谷本は山上を通じて第五生命東南営業部長経由で、中国地区担当役員から東京本社の金融担当本部長に至急連絡をつけるよう手配した。
第五生命と維新銀行との話し合いが、5月に竣工したばかりの維新銀行本店で行なわれることになった。維新銀行側から杉田隆常務取締役総務部長と谷本総務部次長、第五生命側から金融担当本部長の和田篤専務、広島駐在の中国地区担当役員と東南営業部長および山上正代の4名が出席した。
第五生命の西部県でのシェアは大日生命、明和生命、国友生命に大きく後れをとっており、中堅の千代田生命(バブル崩壊後の2000年に経営破綻)にも肉薄される状況であった。
そのため第五生命は維新銀行の企業年金への参入と、西部県でのシェア向上が見込めるこの提案を即座に応諾した。また非上場であった維新銀行の株式引き受けについても快諾し、順次買い取りを進め、3年以内を目処に発行済み株式の2%を引き受けることを確約した。
第五生命と維新銀行とは本格的な取引を開始することになった。第五生命の首脳陣は山上正代が果たした役割を高く評価し、山上に特別待遇を与えることになった。
維新銀行の企業年金導入の枠組みに第五生命が新たに加わり、そのシェア割りが決まった。主幹事の明和生命が40%、大日生命25%、友田生命20%、第五生命15%であった。このシェアについては固定したものではなく、今後予想される増資引き受けや維新銀行への預金協力度合いなどの貢献度によって変動するとの書面も交わされた。
第五生命は維新銀行との新たな取引が始まると、企業年金のシェアを伸ばすために期末の協力預金を積極的にするようになった。反面維新銀行の紹介による保険契約の拡大を求めるようになっていった。今までは谷本と山上との私的な繋がりによる保険の勧誘であったが、維新銀行の上位出資者になることで、維新銀行対第五生命との企業同士の結び付きによる保険勧誘が出来る態勢が整った。 山上は第五生命役員からその成果を一人占めすることができるお墨付きを、特別待遇として与えられることになった。
また山上は、維新銀行と第五生命の資本提携の功労者として、維新銀行を舞台にして大手を振って保険勧誘が出来るようになっていった。
維新銀行内には一人の女性保険外務員が、維新銀行を利用して保険勧誘をすることを「快よしとしない」者もいたが、山上のバックに谷本がいることを知り、見て見ぬ振りをするようになっていった。そのことがかえって山上の保険勧誘に拍車を掛け、エスカレートさせる原因となった。
「この作品はフィクションであり、登場する企業、団体、人物設定等については特定したものでありません」
※記事へのご意見はこちら