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未来トレンド分析シリーズ

激化する米中間の通貨・資源をめぐる覇権争い(前)
未来トレンド分析シリーズ
2012年6月12日 15:00

 スペイン政府まで、欧州連合に金融支援を要請するようになった。財政不安はあたかも「金融津波」となり、欧州を飲み込もうとしているかのようだ。その一方で、欧州の債務危機は中国の対外投資活動の追い風となっている、といっても過言ではない。なぜなら本年の第一四半期だけで、214億ドルに達する勢いを見せているからだ。中国企業による欧州企業の買収攻勢は、加速する一方である。

 最近、中国の国営投資ファンドCICが、英国の水道会社テームズ・ウォーターの株を8.7%取得した。投資金額は8億ドルと言われる。欧州の社会生活基盤に深く係わる分野にまで中国マネーが進出しているわけで、日本としても注視しておく必要があろう。
 国力を測るうえで、通貨は重要なバロメーターである。独立国家であれば、どの国も自国の通貨を持ち、その価値を高めようとする。これまで"史上最強"を誇ってきたのは、アメリカの通貨「ドル」だった。軍事力、経済力、そして政治力を背景に、米ドルは「国際基軸通貨」としても「貿易の決済通貨」としても不動の地位を占めてきた。
 このところエネルギー危機が叫ばれるが、原油取引に際して「ペトロ・ダラー」と呼ばれるように、産油国と輸入国との間ではドルでなければ取引ができない仕組みになっていた。これは、1973年にサウジアラビアのファイサル国王とアメリカのニクソン大統領との間で交わされた合意に基づく。
 世界最大の輸出国サウジアラビアは、原油取引の利益はすべて米国債やドルに投資する。その代わり、ソ連(当時)やイラン、イラクといった潜在的な敵国からの侵略があった場合には、アメリカが全面的にサウジアラビアを守ることが確約される。
 一事が万事。アメリカの絶対的な力をバックに、ドルは黄金時代を築いてきた。世界中がドルにひれ伏していたと言っても、過言ではない。そのおかげで、アメリカ政府は無制限に資金調達が可能になったのである。要は、世界各国がドルや米国債をこぞって保有してくれたおかげで、ドルさえ刷れば必要な資源も物資も簡単に手に入れることができた。

_a.jpg しかし、ここにきて、米ドルの力に陰りが見えるようになった。かつての超大国アメリカはアフガニスタンでのテロ対策に手を焼き、イランの核開発に対しても有効な手立てを欠いている。「9・11」同時多発テロを引き起こしたテロ組織にしても、世界に広がる対米不信や反米思想の広がりを認識しての行動だったと思われる。新興国の間では、アメリカ離れが加速するようになった。その流れを象徴的に示すのが「ドル離れ」である。
 この数年、中国やロシアなど台頭目覚ましいBRICs諸国の間では、相互にドルを介さず、自国の通貨同士での貿易決済を進めるようになってきた。すでに2,300億ドルに達し、ここ数年は28%の増加率を見せているBRICs相互の貿易額。先に開かれたBRICs首脳会議でも、「相互の貿易は互いの通貨で」との合意が得られた。こうした動きは、国際的な取引における静かな地殻変動といえよう。
 IMFがまとめた「準備金と国際通貨の安定」と題する報告書によれば、「特定国の経済状況に影響を受けかねない通貨に依存せず、国際的な中央銀行が発行する国際通貨バンコールの必要性が認められる」とのこと。こうした動きを見ても、ドル一極体制はアメリカ経済の衰退化とともに終焉を迎えつつあることが読み取れる。かつてのスーパーパワーの影響力は見る影もない。
 たとえば、アメリカ主導で進められるイランへの経済制裁。ヨーロッパをはじめ、日本などアジア諸国も歩調をそろえているように見えるが、実態はかなりバラバラである。「アメリカの言うなりにはならない」と公然と反旗を翻す国もあれば、面従腹背の国もあるといった具合だ。表向き、制裁に同調するポーズを取っているが、裏では密かに迂回ルートを通じてイラン原油の輸入を行なうのである。

 中国は、アメリカが強硬に進めるイラン制裁の裏をかくような戦略を大胆かつ細心に進めている。具体的には、イランからの原油輸入量をこの4月には39万バレルに拡大。これは前月と比べ、48%もの増加である。中国政府曰く「西側の経済制裁によって、我々のイランからの原油輸入が影響されることはない」。
 問題は中国だけではなく、トルコやシリア、そしてインドや韓国までもがアメリカの意向に反し、イランからの原油の輸入を拡大していることである。イラン産の原油を積んだスーパータンカー39隻がアメリカの監視網をくぐり抜け、制裁に反対する国々にせっせと通っている。
 とくに、中国は大のお得意様である。もちろん、イランの置かれている厳しい状況をにらみ、中国が価格交渉でイランから大幅な譲歩を勝ち取っていることは想像に難くない。いわば、アメリカの対イラン経済制裁で、漁夫の利を得ているのが中国と言えよう。
 アメリカがイランへの経済裁に踏み切った背景には、「原油取引はドルを介して行なわれるもの」との前提があった。さらに言えば、その裏には「アメリカのドルは国際基軸通貨である」との絶対的な自信が裏打ちされていた。そうした自信過剰が世界の多様な新興国の間でひんしゅくを買っていることに、アメリカ政府もアメリカ国民も目を向けようとしてこなかった。今やアメリカが築き上げてきた「ドル帝国」は、根底が揺らいでいる。

(つづく)
【浜田 和幸】

| (後) ≫

<プロフィール>
浜田和幸氏浜田 和幸(はまだ かずゆき)
参議院議員。国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鉄、米戦略国際問題研究所、米議会調査局等を経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選を果たした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。現在、外務大臣政務官と東日本大震災復興対策本部員を兼任する。


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