<成功を演出した「再就職支援会社」の実体!>
歴史は繰り返される。厚労省の対策はいつもその場しのぎである。バブルが終焉してから10年ぐらい経った1999年、ある事件が起こった。
「入社以来三十有余年、ブリヂストンと運命共同体として寝食を忘れ、家庭を顧みる暇もなく働き、会社を支えてきた従業員の結晶が今日のブリヂストンを築き上げたのである」という抗議声明文を残して、管理職であった有名・大企業ブリヂストンのリストラ社員が、社長室で割腹自殺をしたのだ。
これに同情して、新聞雑誌はこぞってこの話題を取り上げ、また国民の強い関心事にもなった。「嫌なら辞めろという会社のやり方は、長年ブリヂストンを支えてきた人たちに対する仕打ちとして許されるものではない」「従業員をごみくずのごとく扱う経営者の感覚に、一致団結し抵抗すべきである」という意見が多勢を占めた。
なかには、「わたしはブリヂストンのタイヤを買う気がしなくなりました」という意見もあり、販売にも大きな影響が出たのである。
同様なリストラを実施していた全国の企業で、上司や人事部長がバット等で殴打される不幸な事件が続いた。当時、世論には「冷酷無情な企業に見捨てられた哀れな従業員」という構図ができあがってしまったのだ。
そこに、「再就職支援会社」が登場した。この世論に企業存続の危険を感じた有名・大企業は、こぞって再就職支援会社と契約したのである。
再就職支援会社の仕事とは何か。単純に言えば、役割は2つしかない。1つ目は、リストラされた人間が会社に恨みを抱かないようにすること、つまり「会社は悪くない、あなたも悪くない、時代が悪いのだ」と洗脳・教育することだ。2つ目はリストラされた社員が"自然に"元気がなくなり、諦めるか、自分で就職を探す環境を整えることである。
最盛期、従業員1人につき、その委託料は200~300万円とも言われ、10人契約すると3000万円、100人契約すると3億円と言う驚くべきビジネスだった。再就職支援会社は、我が世の春を謳歌したと言える。
そこでは、"産業カウンセラー"という、怪しげな民間資格が重要な役割を果たしている。
これは、後に説明する"キャリアカウンセラー"という資格同様、難易度がとても低い民間資格だ。内容は、「心理的手法を用いて働く人たちが抱える問題を自らの力で解決できるように援助する心理的資格」となっている。
リストラされた社員は、再就職支援会社が用意した立派なビル内にある通称「タコ部屋」に毎日出勤した。部屋には、隣り合わせで小さな机1つが用意された。大企業のエリートサラリーマンが、その環境に耐えることができるはずがない。給与が5~7割減でも、自分で再就職していった。
これを再就職支援会社は"成功"と報告したのだ。当時、有名・大企業では高額の退職金を出していたことや、この実体を世間に知られたくないと思う有名・大企業社員のメンタリティに守られ、大きな問題は生じなかった。
とにかくこれで、人事部長も企業も社員に社長室で自殺されることがなくなり、マスコミの非難・追求も免れたのである。
<プロフィール>
富士山 太郎 (ふじやま たろう)
ヘッドハンター。4,000名を超えるビジネスパーソンの面談経験を持つ。財界、経営団体の会合に300回を超えて参加。各業界に幅広い人脈を持つ。
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