<「キャリアカウンセラー」の実体!>
先に、「厚生労働省は職業紹介・相談業務にあたる公共機関ハローワークの窓口を全国の大学に設置する方針を固め、専門相談員が500カ所の大学に常駐し、学生の就職を支援することを決めた」とお伝えした。
この専門相談員はジョブサポーターと言われる人たちである。では、どのような能力を持っている人たちなのか。ジョブサポーターの多くは、"キャリアカウンセラー"の有資格者が想定されている。
「キャリアカウンセラー」は、現在10の団体が試験を実施している民間資格の総称である。資格のある人は、「求職者に対する個別相談、職業選択や職業能力開発の支援ができる」ことになっている。しかし、筆者の経験では、そのような能力のある人物に会ったことはない。因みに、業界で一流と言われている人材コンサルタントでこの資格を持っている人にも会ったことがない。結果がすべての厳しい世界で、資格など意味を持たないからである。
この資格は、厚生労働省が2002年に「キャリアコンサルタント5万人計画」を突如言いだし誕生した。人材開発事業を柱にする日本マンパワーを筆頭に官民の養成講座が相次いで開講された。背景に、長引く不況と、それに伴うリストラの増加があったからだ。
つまり、リストラされて無職になった人が余りにも多かったので、急遽、再就職のサポートをする専門家を5万人養成しようとしたわけだ。
その結果はと言うと、リストラされた人たちの多くが、自分の飯の種として、資格をとり、キャリアコンサルタントになる事態が起きた。それは、実務経験がまったくなくても、誰でも講座を受ければ取れる簡単な「資格」(130時間程度の講習と簡単な試験)だったからだ。
資格発足当時、経験のある人材コンサルタントから見ると講座内容が余りにもお粗末で、彼らからは見向きもされていない。そこで、講座を開講している民間団体の職員が有名・大企業の人事部員に、無理に頼んで、資格を与えていたことを記憶している。
現在は、社会人になったばかりの新入社員にこの資格を取らせている人材ビジネス企業もあると聞く。
実務経験のない、にわかキャリアコンサルタントで、大学生を指導できるという発想には余りにも無理がある。しかし、厚労省は今回の専門相談員を選ぶ際、候補者のコンサルティング能力を判断できる能力・手段は他に持ち合わせていない。必然的に、自ら作った「キャリアカウンセラー」の資格の有無で判断するほかない。実体を知らない学生にとっては「資格」という言葉は効果的でもある。
能力や見識のないキャリアコンサルタントに、誤った指導をされると、多くの不幸、悲劇が生まれる。合格しないことは学生が悪く、合格できた場合は専門相談員(ジョブサポーター)の成果となる。その企業が、いわゆる"ブラック企業"や"グレー企業"であっても"成功"となる。ここに、厚労省の掲げる数字の巧妙なマジックがある。残念なことに、社会人未経験の学生には、絶対にジョブサポーターの能力は見抜けない。
<プロフィール>
富士山 太郎 (ふじやま たろう)
ヘッドハンター。4,000名を超えるビジネスパーソンの面談経験を持つ。財界、経営団体の会合に300回を超えて参加。各業界に幅広い人脈を持つ。
※記事へのご意見はこちら