「ウチの店って、こんなに公務員が来ていたとは思わなかった」と、ある飲み屋の店員がボヤいた。福岡市長が全市職員に要請した1カ月間の「自宅外禁酒令」も6月21日午前0時をもってようやく終了した。
とは言え、この前代未聞の異例措置は、飲酒がからんだ盗難や暴行という不祥事が発端である。また、当事者がいる部局においてはさらに1カ月間延長していることもあって、「みな、よくぞガマンした。さあ、飲みに行こうや!!」とはならんだろう。当分は、飲食業界にとって手痛い"自粛ムード"が続くと予想される。
飲み仲間の友人が経営する博多区役所近くの居酒屋が閉店した。事情を聞くと、区役所に務める市職員はもちろんのこと、近くにある博多署の警察官までパタリと姿を見せなくなったという。
連続した飲酒不祥事を受けて始まった「ショック療法」(禁酒令)に、某アンケートでは福岡市民の半分が賛成していた。NET-IBで実施したアンケートでは、禁酒令では「手ぬるい」「まだ甘い」という理由で反対しているものもあった。この1カ月間、市職員だけではなく、多くの公務員が、自宅以外の人目にふれるところで酒を飲むことに抵抗を感じていたはずだ。聞くところによると、なかには翌日酒が残った状態で出勤し、誤解を招くことを恐れるあまり、許可されている自宅での飲酒すら行なわなかった職員もいたという。
たとえば、「あの人は県だからOK、あの人は市だからNG」というように市民は見た目で判断できない。ひとくくりに公務員と見られ、ともすれば酒の席にいること自体が白い目で見られる風潮が生まれてしまったように感じる。市職員はじめとする公務員が酒を断ったため、それに付き合っていた出入業者なども飲食店に足を運ばなくなった。市やマスコミは市教員含む1万6,300人が『禁酒令』の対象と発表していたが、NET-IBによると、自宅外禁酒の要請は、臨時・嘱託の職員、一部の外郭団体ではアルバイトにまで出されており、少なくとも2万人以上が影響を受けているという。警察や出入業者まで含めれば、この1カ月間、おそらく3万人以上が自宅外禁酒をしていたのではないかと小生は思う。
ともかく、今回の『禁酒令』がきっかけとなって、泣く泣く店を畳んだところがあるのは事実だ。市長は最近になって、自らの減給処分を発表したが、閉店した飲食店の経営者やその店のファンに対し、どう責任をとるつもりなのか。
長丘 萬月 (ながおか まんげつ)
福岡県生まれ。雑誌編集業を経て2009年フリーに転身。危険をいとわず、体を張った取材で蓄積したデータをもとに、「歓楽街の安全・安心な歩き方」をサポートしてきた男の遊びコンサルタント。これまで国内・海外問わず、年間400人以上、10年間で4,000人の歓楽街関係者を『取材』。現在は、ホーム・タウンである中洲(福岡市博多区)にほぼ毎日出没している。
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