ネットアイビーニュース

NET-IB NEWSネットアイビーニュース

サイト内検索


カテゴリで選ぶ
コンテンツで選ぶ
会社情報

書評・レビュー

人「韓国」の振り見て我が「日本」振り直せ!~「オーディション社会 韓国」佐藤大介著(新潮新書)
書評・レビュー
2012年6月29日 07:00

 就職のために男も女も整形、家計の半分が教育費、街には"ハグウォン"(予備校、塾)の看板が溢れている。しかし、大卒の就職率が約5割、就職できても"ピジョンギュ"(非正規)採用が大卒の3割を占め、20代の非正規雇用者の平均月収は88万ウォン(日本円で約11万)。15歳から29歳の青年層の失業率は8.5%と高く、「勝者独占」のシステムが社会に浸透し、敗者復活も認めない。「他人に勝つ」ことだけに邁進させられている韓国。その結果、自殺率は先進国第一位であり、特殊出生率(女性が生涯に出産する子供の数)も1.15で日本の1.37を下回る。

 最近、景気の先行き不安に悩む日本の経営者は「韓国経済の活力に学べ」と連呼している。本屋には、"サムソン式仕事の流儀"、"サムソンの戦略マネジメント"、"サムソン成功の秘密"と"サムソン"という冠のついた本が所狭しと並んでいる。「欧米流に学べ」の次は「韓国流に学べ」と節操がない評論家の先生はともかく、経営者もまったく情けない。日本流はどこに行ったのだ。

 そうした「韓国に学べ」といった視点に対する違和感がこの本の出発点である。著者は、韓国延世大学に社命留学経験がある共同通信外信部の記者である。2009年から2011年末までソウル特派員をしている。2泊3日の観光旅行ではまったくわからない、韓国社会の光と影が、赤裸々に描かれている。新書ではあるが、視点は骨太で、日本の現状や将来を考える上で示唆に富んでいて、とても参考になる。

 現代の韓国は『「オーディション共和国」になった』(朝鮮日報、2011年10月9日)と言われる。歌手発掘の人気オーディション番組「スーパースターK」(シーズン3)の応募者は197万人になった。驚くべきことに、これは韓国総人口の約4%に当たる。
そればかりではない。韓国社会の歪さを、とってもよく顕しているのは、審査員とスタジオの関心を引く一番のキーワードが"テリマンジョク"(代理満足)という事実である。
 ここで、重要なのは、代理満足を与える人が、自分と同じかそれ以下の境遇にあることだ。貧乏な家庭の出身だったり、低学歴であったり、フリーターだったり、まして不細工であれば、"テリマンジョク"を求める人たちは、大いにカタルシスを味わえるという。

 本書は韓国への批判本ではない。"人「韓国」の振り見て我が「日本」振り直せ!"というべき日本人への警鐘本である。芸能界の代理満足、就職・雇用問題、人物の「スペック」評価など多くが正に現在の日本に当てはまる。今すぐにでも、日本流の「文化経済大国」としての構築が国家戦略として実現できなければ、同じ道を辿る可能性が高いのだ。

 韓流スター、サムスン、高級官僚などほんのひと握りの「勝者」の陰には、無数の「敗者」がいる韓国。就職はともかく恋人の人物評価さえ商品性能を表す「スペック」という言葉を使うことに何の疑問も感じない。

 経営者や社会人はもちろんだが、就職活動中の学生や20代の若者にも読んで欲しい本だ。これからの人生で役に立つ多くの"気づき"に出会えるはずだ。

【三好 老師】
 

<プロフィール>
三好 老師 (みよしろうし)
 ジャーナリスト、コラムニスト。専門は、社会人教育、学校教育問題。日中文化にも造詣が深く、在日中国人のキャリア事情に精通。日中の新聞、雑誌に執筆、講演、座談会などマルチに活動中。


※記事へのご意見はこちら

書評・レビュー一覧
書評・レビュー
2012年10月10日 07:00
書評・レビュー
2012年10月 9日 12:30
書評・レビュー
2012年7月 9日 14:31
NET-IB NEWS メールマガジン 登録・解除
純広告用レクタングル

2012年流通特集号
純広告VT
純広告VT
純広告VT

IMPACT用レクタングル


MicroAdT用レクタングル